2025年01月23日
トークセッション「フランスのスタートアップエコシステムと日本企業の進出機会」を開催
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2022年に策定された「スタートアップ育成5か年計画 」をはじめ、様々なスタートアップ政策や各企業のアクセラレーションプログラムなどの効果もあり、発展をとげつつある日本のスタートアップエコシステム。しかし、世界に目を向けてみるとまだまだ学ぶべき点が多いことも事実です。例えば、日本発のユニコーン企業は2024年時点で12社にとどまっているのに対し、フランス発のユニコーン企業は34社といわれています。フランスは欧州でも有数のスタートアップ大国であり、世界最大級のスタートアップインキュベーション施設 STATION F を抱えることでも知られています。
そこで、12月6日、日仏両国をつなぐスタートアップエコシステムのキーパーソンが、WeWork 丸の内北口に集まり、「フランスのスタートアップエコシステムと日本企業の進出機会」というテーマのもとトークセッションを開催。フランスの起業家を取り巻く最新の状況や日仏の環境の違いなどについて語り尽くしました。
<登壇者>
パリ経営大学院(HEC Paris)
イノベーション&アントレプレナーシップ 研究所 シニアエグゼクティブディレクター
インゲ・ケルクロ・デヴィフ 氏
La French Tech Tokyo ボードメンバー
経済産業省 イノベーション・環境局 イノベーション創出新規事業推進課 専門職員(海外連携)
ピエール・ブジェル 氏
日本貿易振興機構(ジェトロ)スタートアップ課 課長
塩野 達彦 氏
<モデレーター>
WWJ株式会社 (WeWork Japan) レベニュー・ストラテジー&オペレーションズ シニアマネージャー
服部 紘太朗
HEC Paris と La French Tech のスタートアップエコシステム
まず、ケルクロ・デヴィフ氏よりHEC Paris についてお話しいただきました。1881年にパリ商工会議所によって設立されたビジネススクールである HEC Paris は、「THINK」「TEACH」「ACT」をビジョンに掲げ、多彩なプログラムを提供し、世界の政財界のキープレイヤーとなる人材を多数輩出しています。また、研究機関としても世界から注目されており、その中の一つがイノベーション&アントレプレナーシップ研究所です。
イノベーション&アントレプレナーシップ研究所は、STATION F をはじめとする国内外のインキュベーション施設に拠点を構え、ビジネス成長のさまざまな段階に合わせた包括的なプログラムを提供しています。また、HEC Paris の同窓会や財団に加え、さまざまな協会やクラブ、そして企業や公的機関などとのつながりを持ち、産学官連携のエコシステムを形成しているそうです。
続いて、 ブジェル 氏よりLa French Tech と La French Tech Tokyo についてご紹介いただきました。2013年にフランス政府が打ち出した La French Tech は、フランス国内および世界中でフランスのスタートアップ エコシステムの構築と成長をサポートしています。STATION F をはじめとする世界114か所 (52か国、国内48か所)に拠点を持ち、あらゆるスタートアップ企業、大企業、組織を施設に集め、交流・連携を促進し、イノベーションを生み出していくエコシステムとして機能しています。また、起業家やスタートアップ企業それぞれにパーソナライズされたサポートプログラム、世界中に展開されているネットワーク、多数のイベントを提供し、フランスをスタートアップ大国に押し上げているのだそうです。
その中で、日仏のスタートアップ振興を促進する役割を果たすのが 、 La French Tech Tokyo です。La French Tech Tokyo は、世界中に114か所ある La French Tech コミュニティの1つの拠点として、日本におけるフランスのスタートアップエコシステムへの関心を高め、フランスに進出したい日本の起業家やスタートアップ企業、技術者、フランス企業に出資したい日本の投資家を支援しています。また、フランスから日本への進出を希望するスタートアップ企業の支援も行い、日仏のイノベーションを促進しているそうです。
そして、La French Tech とHEC Paris は、それぞれ単体でプログラムを提供するだけではなく、相互に連携し作用しあいながら企業の成長を促す存在となっているそうです。このようにエコシステム同士が相互連携することで、その規模を拡大し、起業家、スタートアップ企業、大企業など、誰にとっても成長しやすい環境が整えられ、成果をあげているのがフランスのスタートアップエコシステムの特徴のひとつであるということが、両氏より伝えられました。
政策の先にある意識改革が進むフランス
次に、フランスのスタートアップ企業を取り巻く現状についてお話しいただきました。
フランスの若者はかつて、大企業か公的機関に就職できるかどうかで人生が決まると言われていたそうで、失業率も高く、優秀な若者は国外に流出してしまうという時期があったそうです。しかし、2013年、La French Tech がスタートし、フランス政府主導でスタートアップ企業の力を認め応援する動きがでてくると、大企業もスタートアップ企業を受け入れ、彼らとの協業に力を入れるようになりました。そして大企業への就職を目指していたはずの若者も、大卒者の25%程度が起業やスタートアップ企業への就職を選ぶようになりました。このように、政府が施策を打ち出し主導することで国全体の意識改革をもたらし、さらにその意識をスタートアップエコシステムを通して共有したことで、大企業だけでなく若者の意識を変えることに成功したそうです。
また、日本とフランスの違いについて興味深い見解を聞くことができました。日本もフランス同様にスタートアップ施策を打ち出し、意識改革も進んでいるといわれています。しかし、フランスと同じようなスピード感でそれらが進んでいるかというと、なかなか難しい面もあるようです。その一因として、国民性によるビジネススタイルの違いではないかという話題があがりました。例えばビジネス上の意思決定をする際に、日本ではディテールへの同意を大切にするため、ディスカッションに時間をかけるといわれています。一方フランスは、BIG PICTURE (全体像)に同意することに重きをおき、ビジネスを進行させながら詳細を擦り合わせていくことで、スピード感を保っているのだそうです。ディテール全てに同意しなくてもビジネスを進行していくフランス型の意思決定に、日本も学ぶところがあるかもしれません。
日本企業の海外進出を支援するジェトロの取り組み
課題はありつつも、確実に大きく発展しつつある日本のスタートアップエコシステム。ジェトロの塩野氏より、改めて日本のスタートアップエコシステムの現状や強み、ジェトロの取り組みをお話いただきました。
日本では、大学をベースとするスタートアップ企業の数が、2014年と比較すると2.5倍に増えたそうです。またディープテック分野への投資が進んでおり、スタートアップ投資額全体の3割超を占め、研究者やエンジニアも大きくプールされたりと、ディープテックを中心に大規模なスタートアップエコシステムが成長しつつあるとのことです。一方でグローバルで活躍するためのメンター不足やマインドセット等の課題もあり、それらの課題に対して、メンタリング、アクセラレーションプログラム、マーケティング、ブランディングといった、ジェトロが実施している日本のスタートアップ企業向けのサービスをご紹介いただきました。
さらに、海外での活動事例として2024年の5月にフランスで開催された、オープンイノベーションの祭典 Viva Technology の様子についてもお話しいただきました。
日本は今回、カントリー・オブ・ザ・イヤー(特別招待国)としてジャパンパビリオンを設置。ジェトロが過去に出展支援したスタートアップカンファレンスの中で最大規模となる、52社のスタートアップ企業と8社のパートナー企業および団体が、AI、クリーンテック、モビリティ、エンターテイメントなど幅広い分野の最新技術や、日本の大手企業とスタートアップ企業によるオープンイノベーションを、世界へ向けてアピールすることができたそうです。
また、知的障害のある作家のアート作品のライセンス化に取り組むヘラルボニー(岩手県盛岡市)が、日本企業として初めてイノベーションアワードの「エンプロイーエクスペリエンス、ダイバーシティ&インクルージョン」部門賞を受賞しました。その後、同社は7月にパリに子会社を設立し、欧州企業との協業、また現地の福祉施設などを通じて、新たに海外アーティストとのパートナーシップにも取り組んでいるとのことです。
そして、アーリーステージのスタートアップ向け欧州長期派遣プログラム「J-StarX Europe Long term program」についてもお話しいただきました。このプログラムは経済産業省及びジェトロとHEC Parisの協業によるもので、世界最大のスタートアップ施設であるSTATION Fに滞在しながら、各種ワークショップやメンタリング、その他多くのイベントなどへの参加を通じ、フランスを始めとする欧州への進出を目指すものです。この他にも、ジェトロが実施している日本のスタートアップ企業が海外進出を目指すための、様々なサポートプログラムをご紹介いただきました。
最後に、HEC Paris、La French Tech、ジェトロが今後も、互いのスタートアップエコシステムに影響を与え合いながら、日仏の起業家、スタートアップ企業の成長を加速させていくことができればとトークセッションは締めくくられました。
WeWork Japan も、国内外のスタートアップエコシステムのハブとなりながら、入居メンバーの成長と日本経済の発展に寄与して参ります。
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