ビジネスチャットの会社から「働く人の心に宿る火に、薪をくべる」会社へ
インナーブランディングの重要な施策として、社名変更とオフィス移転を同時に実施
日々の何気ないコミュニケーションが増加。ビジネスへの好影響も出た
想定を超える出社率でさらなる増床を検討中
ビジネスチャット「Chatwork」を提供するChatwork株式会社は、2024年7月1日に株式会社kubell(クベル)へと社名変更しました。それと同日付けでWeWork 日比谷 FORT TOWERからWeWork 乃木坂に東京オフィスを移転。 ワンフロアを専有し、新たなステージをまい進しています。リブランディングに伴う社名変更の思いや同じタイミングでの移転の狙いなどについて、同社代表取締役CEOの山本正喜氏と、ピープル&ブランド本部ブランドリードの平知己氏にお聞きしました。
■WeWorkを選んだ理由
- 出社する人の増減に柔軟に対応できるシェアオフィスを検討。中でも WeWorkは、共用スペースを活用することで、より柔軟に増員に対応できるため
■WeWork 乃木坂に移転した理由
- WeWork 日比谷 FORT TOWERに入居したタイミングから組織がさらに拡大し、社員数が増えていた
- 社名変更とともに組織が大きく変わっていくタイミングにあり、「東京オフィスの丸ごと移転」という目に見える形で、社内の意識変容を促したかった
- 組織が変化している体感をつくり、熱量を上げていくために1日でも早く「(多くの社員が)一緒にいる場所」が必要に。また、社員同士の関係性を深めるのに欠かせない何気ないコミュニケーションを増やすためにも、大幅な増床(増席)が必要だった
ビジネスチャットの会社から「働く人の心に宿る火に、薪をくべる」会社へ
──「Chatwork」という名称が社会に浸透している中で、「kubell」へと社名変更された理由をお教えください。
山本:当社は、「Chatwork」を2011年にリリースし、ビジネスチャットのパイオニアとして日本企業の新しい働き方を切り開いてきました。今では、従業員数300人以下の中小企業において圧倒的なシェアを持っています。それをプラットフォーム(基盤)として、お客様の経営や働き方により深く関わっていきたいという思いがありました。
その思いを実現する手段として、着目したのがBPaaS(Business Process as a Service)です。便利なSaaSが数多く登場していますが、特に多くの中小企業では複数のSaaSを使いこなすのが難しいという課題があります。それであれば、当社がビジネスプロセス(経理や労務などの業務)ごと巻き取り、チャット経由でお客様とコミュニケーションをとりながらSaaSを運用代行すればいいのではという、BPaaSの発想に行きつきました。顧客のもとでニーズを検証したところ、ビジネスとしての可能性を感じ、本格的に事業展開することを決めました。
株式会社kubell 代表取締役CEOの山本正喜氏
山本:一方、ニーズ検証の際に顧客から「ビジネスチャットの会社がビジネスプロセスを請け負う事業を始めるのは、なぜですか?」という質問を複数の方からいただきました。「Chatwork」というツール名を社名にしている当社は、顧客にとってあくまでも「ビジネスチャットの会社」なのです。
そこで、BPaaSを含め、事業を多角化していくに当たり、社名の抽象度を上げ、コーポレートミッションの「働くをもっと楽しく、創造的に」を表現できるものに変更することにしました。新社名の「kubell(クベル)」には、「働く人の心に宿る火に、薪をくべるような存在でありたい」という当社の思いが込められています。
──貴社(東京オフィス)は、2022年3月に WeWork 日比谷 FORT TOWERに入居されています。どのような経緯で、WeWorkを活用し始めたのでしょうか。
山本:われわれはもともと、ビジネスチャットを使いこなし、リモートワークを積極的に取り入れるなど、先進的な働き方を進めている会社でしたが、それでもコロナ禍によって働き方が大きく変わりました。緊急事態宣言でフルリモートに近い働き方になり、その後も感染状況を鑑みながら、働き方を柔軟に切り替えてきました。リモートが8~9割で、オフィスはがらがらになっていた時期もありました。
一方、世の中の働き方が大きく変わっていったため、ビジネスチャットの需要が急激に高まりビジネスは好況で、社員数は大きく増加していきました。人が増えても出社する人は減ったままという状況が続き、オフィス(の賃料)がもったいないという意見が出ました。単純にオフィスを縮小するだけでは、出社する人が増えたり、減ったりと流動するのに対応できません。そこでシェアオフィスの活用を検討したのです。
複数のシェアオフィスを見学しました。WeWorkは高いイメージがあったため、初めは「参考程度に」という感覚でしたが、実際に見学して話を聞くと「リーズナブル」と感じました。WeWorkのデザインは圧倒的に素晴らしく、出社数が増えたとしても共用部なども活用して対応できることが決め手となり、当時出来たばかりのWeWork 日比谷 FORT TOWER に入居することにしました。
インナーブランディングの重要な施策として、社名変更とオフィス移転を同時に実施
──そして社名変更された日(2024年7月1日)に、WeWork 乃木坂に移転されました。
山本:WeWork 日比谷 FORT TOWERは、最初は約80席で契約を開始し、最終的には140席まで拡張しました。コロナウイルス感染症の状況が落ちつくにつれ、一部の部署・チームからは「業務やコミュニケーションのために出社したい」という声も出てきました。そこでオフィスを少し拡張して、出社が増えることのメリットを検証することに。「生産性の観点でも出社が増えるメリットは大きい」という結果に至りました。
今回、日比谷での再拡張ではなく、WeWork 乃木坂への移転を選んだのは、インナーブランディングの意味合いが大きいです。社名が変わり、ビジネスドメインが変わることによって組織が大きく変わっていくタイミングに差しかかり、その「変化量の大きさ」を組織内に浸透させる必要がありました。
また、社名が変わり、ロゴも変わる。それに合わせてブランドのシステムも変わり、付随してクリエーティブなども全て変わっていきます。その中で、オフィスだけが変わらないというのは、単純に「よくない」とも思いました。
一方、リモートワークが進んだことで、他部門との横のつながりが非常に少なくなり、会社全体の人間関係が希薄になっていました。そのような状況下で、新たな方針を社内に伝えていくことの難しさも実感していました。今は、新たなカルチャーやバリューを社内に浸透させて一体感をつくり、熱量を上げていく特に大事なタイミングであり、そのためには、1日でも早く「一緒にいる場所」が必要でした。そこで、出社率を引き上げるために席数を大幅に増やし(223席)、WeWork 乃木坂のワンフロアを専有オフィス契約したのです。
オフィスを移転する判断から約4カ月のスピード移転が実現できたのは、WeWorkの契約が柔軟であること、WeWorkからWeWorkへの引っ越しであれば、われわれもロケーションに慣れていたことが奏功したのでしょう。
平:われわれピープル&ブランド本部は、ブランドを設計したりするだけでなく、インナーコミュニケーションでどう円滑にブランドを社内に浸透していくかも担っています。実際にどのように実現していくか、人事部門やCEO室と連携しながらさまざまな施策を走らせています。
今回、社名変更と同時に、目に見える大きなイベントとして「東京オフィスの移転」を実現できたことは、社内の意識変容に必要だったと思っています。社内のコミュニケーションの立てつけなどを再構築する、よい機会にもなりました。
日々の何気ないコミュニケーションが増加。ビジネスへの好影響も出た
──ワンフロアを専有することは、インナーコミュニケーションの観点でメリットがありますか。
平:メリットがあると思います。チャットなどのツールを使った働き方で作業効率は限りなく高まっていく一方で、社員同士の関係性が薄くなっていると感じていました。同じ部の仲間にどんな趣味があって、どういうことに悩んでいるかなど、その人自身のことを知る機会がオンラインコミュニケーションだけでは足りていないところがありました。関係性を深めるには、仕事に直接的には関係のない、挨拶をはじめとした日々の何気ないコミュニケーションが大事です。
席数を増やし、出社率を上げることは、そのコミュニケーションを増やす大きなきっかけになります。しかし、それだけでは足りないことが、日比谷時代の経験で分かっていました。具体的には、日比谷時代は、専用オフィスがあるフロアの共有スペースには、他社の社員も当然いるため、自社の人なのか他の会社の人なのかが分からず、声をかけづらいということがコミュニケーションを妨げていました。しかし、乃木坂ではワンフロアごと借りているので、自社の人ということが分かりやすく、他部門の社員など業務で直接関わりがない人にも声をかけやすくなりました。他にもIDカードケースに入れられる社内用の名札を制作するなど、一目で自社の人かどうか分かるよう、声をかけるハードルを下げる工夫をしています。
kubellの新オフィス( WeWork 乃木坂)
──実際に社内のコミュニケーションは活性化していますか。
平:同じフロアに同じ会社の仲間がいることで、今では、自然とご飯を一緒に食べたり、雑談したりと、あちこちでコミュニケーションが生まれています。それだけでなく、移転から約1週間で、何気ない会話からプロジェクトが生まれたり、新しいアイデアを創発されたり、仕事に関する困りごとが一瞬で解決したりするなど、ビジネスに直結する効果が出ています。
想定を超える出社率でさらなる増床を検討中
──オフィス活用の今後の展望をお教えください。
山本:乃木坂に引っ越したことで、建物自体の構造や雰囲気も相まって、よりホーム感のあるオフィスになったと思っています。乃木坂には、エントランスの横には路面に面した開放的な会議室があり、イベントに使いやすそうな大会議室やプレイルームもあります。プレイルームは懇親会で使わせてもらい、社員の評判もよかったです。この乃木坂を拠点として、kubellとしてのビジネスを大きく前進していきたいと考えています。
平:変化の大きい、不確定な時代においては、いろいろなトライアルをしながら正解を見つけていくことが大切です。ブランディングは、ただ既存のブランドに即したクリエーティブを行うのではなく、「経営がいま必要としているブランドって何だろう?」と常に問い、オフィスや働き方、コミュニケーションの形などをアップデートし続ける必要があります。社員みんなでアイデアを出しながら、ベター(better)を尽くしていきたいです。
山本:当社は現在、「週2日以上」の出社を推奨しており(エンジニアは週1日)、週2の出社曜日を「営業部は月曜と水曜」というように部門ごとに固定することで、社員の出社が集中することを避けています。
この出社ルールを前提とし、東京オフィスの在籍人数を鑑みて、現在の223席で契約しました。しかし、想定よりもはるかに出社率が高く、すでに余裕があまりない状況です。近年は、グループで年間100人前後増員していることもあり、すでにWeWorkと会話を始めています。
WeWorkは、前回のように「同じ拠点で拡張する」と、今回のように「丸ごと拠点を移る」という複数の増床の方法がとれます。選択肢が複数あることはオフィス戦略の幅を広げますし、WeWorkの契約体系(内装工事費・原状回復費・敷金を抑えられる、拡張などの際のリードタイムが短い)で財務諸表におけるインパクトを平準化できることは、非常に大きなメリットです。今後もWeWorkの活用を有力な選択肢の一つとして検討し続けていきます。