2025年01月14日
【ニュースレター】パネルディスカッション「日本で10兆円スタートアップを生みだすには」を開催
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WeWork Japanからのお知らせ:
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【ニュースレター】パネルディスカッション「日本で10兆円スタートアップを生みだすには」を開催
11月14日、WeWork 神谷町トラストタワーにて、日本のスタートアップを飛躍させるための戦略を語り合うパネルディスカッション「日本で10兆円スタートアップを生みだすには」を開催しました。
【イベント概要】
主催:Peatix Japan
共催:スタートアップエコシステム協会、Eight Roads Ventures Japan、野村證券
会場協賛:WeWork Japan
登壇者:
・株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大 氏
・大阪公立大学客員教授/ラザード・ジャパン・アセット・マネージメント ポートフォリオマネージャー 福田 智美 氏
・株式会社東京証券取引所 上場部企画グループ統括課長 池田 直隆 氏
・経済産業省 イノベーション・環境局 イノベーション創出新事業推進課 スタートアップ推進室長 富原 早夏 氏
・Eight Roads Ventures Japan 代表 デービッド・ミルスタイン 氏
モデレーター:
野村證券株式会社 コーポレート・ファイナンス八部長 長井 里実 氏
まずは、オープニングとして、WeWork Japan CEO ジョニー・ユーよりご挨拶をさせていただき、WeWork と WeWork コミュニティについて紹介しました。「 WeWork Japanは、2018年から日本国内で約40拠点のフレキシブルオフィスを提供しています。入居メンバーの大半はイノベーターであり、スタートアップ企業をはじめ、大手企業のイノベーションチームやDXチームも集まっています。多様性のある WeWork コミュニティでは、起こるイノベーションの規模も近年ますます大きなものとなってきており、今後もこの動きをしっかりサポートしていくつもりです。また、WeWork コミュニティは、DEI(ダイバーシティエクイティ&インクルージョン)の考え方を非常に大切にしており、例えば、女性起業家や女性が働く環境の支援を、今後も変わらず続けていきます。そんな WeWork において、今回のテーマをみなさんと語り合えることをとても嬉しく思います。この先、日本から世界に注目される企業が誕生することを私は信じていますし、その環境を作るために何をするべきか、みなさんとざっくばらんに話し合い、学びを得られればと思います。」と述べました。
そして、モデレーターの長井氏より、「時価総額10兆円の上場企業数が20社弱と言われている日本において、10兆円のスタートアップというと飛躍のある数字のようですが、普段一同に会することがあまりない、多彩な顔ぶれの登壇者の皆様と視座高く議論を交わしましょう」と、以下3つのトピックを軸に、パネルディスカッションがスタートしました。
⒈ 10兆円スタートアップを築くために‘何’が必要か
⒉ 現在の日本のスタートアップ・エコシステムに欠けているのは‘何’なのか
⒊ 起業家の成功を支えるために、我々は‘何’をするべきか
◾️10兆円スタートアップを築くために‘何’が必要か
まず、株式会社SHIFTの丹下氏が、「10兆円スタートアップを築くためには、大きなマーケットでビジネスをすることが必要である」と話しました。そして、「例えば、時価総額3,000億円、売上1,100億円の会社が、同じ事業で毎年200億円売上をのばしたとしても、時価総額約10兆円に到達するには、数10年かかる計算である。時間をかければそれは達成できるだろうが、それ以上のビジネスモデルを考えていく必要がある」と述べ、その一つの方法として、「M&A」が話題に上りました。
経済産業省(経産省)の富原氏は、「日本は出口としてのM&Aが少ない」と話しました。「米国では、GAFAMが後輩スタートアップ企業をM&Aすることで仲間に入れ、新たな『経済圏』を作り、株式市場のパフォーマンスを引き上げている」と説明。さらに、「その『経済圏』は、人が何に時間やお金を使うのか、どうコミュニケーションをするのか、どう人生を過ごすのかといった、人々の価値観自体を大きく変え、さらにそれが経済のあり方を変えた。このような動きの有無が日米の30年の株式市場の差分を開かせたのでは」と日米の比較をもとに日本でのM&Aの少なさを述べました。
さらに富原氏は、日本のスタートアップブームや政策の歴史にもふれ、「これまでの第一次、第二次、第三次ベンチャーブームからのノウハウや人材、プラクティスが積み重なったことにより、日本でも10兆円企業を生み出す素地ができてきたのではないか。経産省が取り組むスタートアップ支援や、2022年に発表された『スタートアップ育成5か年計画』は、日本の新陳代謝、ひいては賃上げを目的に推進し、特に日本経済に檄を入れてくれる人を育成したい」と話しました。
続いて、東京証券取引所(東証)の池田氏も、M&Aについて話しました。「東証における年間のIPO数は100件。上場企業の数は3,000社以上だが、日米で比較をした時に、日本の方が業種の偏りがあると感じる。そのような日本から10兆円の企業を生み出すには、単独でどう成長するかだけではなく、異なるマーケットにある事業や異なる業種同士がまとまり、成長し、大きな企業を生み出すといったことがあってもよいのではないか」と語りました。
M&Aから話題は少し離れ、大阪公立大学客員教授であり、機関投資家でもある福田氏は、「上場がゴールではなく、長期間持続的な成長を遂げるには、きちんとしたエクイティストーリーと、マネジメントプレミアムを作ることができるかが重要だ」と話しました。また、「BSとCFの議論では、生まれてくるキャッシュをいかに上手に使うかが重要だ。さらに適切な企業開示は多様性も含めて資本コストを下げる効果がある」とも話しました。
そして、Eight Roads Ventures Japan 代表のミルスタイン氏が、「大きな夢がなければ大きなことはできない」と話題を進めました。
同様に丹下氏も、「大きなマーケットと秀逸なビジネスモデル、そして優秀な経営チームがいれば事業はのびる」と続けました。丹下氏は、「スタートアップから出資を求められることがよくあるが、実際にビジネスモデルを聞くと、マーケットが小さすぎたりニッチすぎることが多い。自分が本当にやりたいことや自分の原体験とマーケットがマッチしなければ、クラッチがはまらず前に進まない」と語りました。
また、丹下氏は、日本ではチャレンジした結果、失敗をすることが悪いことだという認識が根強いことを指摘しました。「チャレンジは決して悪くない、チャレンジしたことを皆で共有し、次のチャレンジに進む方がよい」と話しました。
<次のチャレンジ>について、ミルスタイン氏は、「失敗は早くした方がいい。うまくいかないことは早い段階でわかるものだから、わかった時点で切り替えて経験を再利用すればよい」と述べ、丹下氏とともに、「日本人は失敗したくないから最後まで頑張る文化があり、それは素晴らしいことでもあるが、その要素に次のチャレンジへの切り替えをミックスできるとよい」と話しました。そして「それが、日本の人材流動性の問題にもつながる」と、話題は人材流動性の問題に移りました。
人材流動性に関しては、日本のマクロ経済の課題の一つであると、富原氏も同意し、「スタートアップへの転職者の推移を見ると、確実に増加している。リクルート社のデータによると、40歳以上の方のスタートアップへの転職者数は2015年から2023年の間に約7倍にも増えていると言われている。新卒者のスタートアップへの就職も同様に増加しており、その背景の一つとしては、有望スタートアップの年収が大企業の年収を上回るケースや、転職市場でのスタートアップへの年収水準が上昇していることが挙げられる。優秀な人材が、スタートアップにも流動していることで、これまでもう一つの日本経済の課題だった人材の流動性に動きが出てきて、スタートアップが日本経済の変化のやる気スイッチを入れる存在にもなってるのではないかと思っており、そのようなスタートアップが今後も増えてほしい」と語りました。
次に、福田氏が、「一般的に企業のポートフォリオにおいてインベストメントとダイベストメントは表裏一体であり、インベストメントストーリーだけでなく、ダイベストメントストーリーにも注目すること、IRRも含めてどういう基準を設定するか、どういった時に手じまいをするのか、といったきちんとしたポートフォリオを構築することが重要だといわれている」と述べました。また、その事業を自社が保有・運営することが企業価値にとって最適なのかどうか、経済産業省の出している「Who is the best owner」の考え方も重要だと話しました。
ポートフォリオに関して池田氏は、「海外から見た日本企業の課題として、事業ポートフォリオが挙げられることがとても多い」と話を戻し、「日本では、収益性が悪い事業を捨てたり売却することに目がいかず、なんとかしようとしてしまうことがある」と指摘しました。そして「それは文化的なものである可能性もあるため、今後そのマインドをどう変えるかも日本全体の課題かもしれない」と話しました。
ここで、<文化的な差>についての議論が続きました。
まず、ミルスタイン氏が、「日本の頑張る文化はよい面もあるが、投資の世界では技術に大差がない場合、出資に対して結果を出せるチームかどうかが大切である」と述べました。そして「その結果がでない場合、単純に頑張るのではなく、何が原因かを明らかにすること、投資家側もスタートアップにきちんと責任を追及することが必要だ」と語りました。
これに続き丹下氏は、「会社の経営はできる人がやるべきだと考えている。もっといい人材がいればその人に経営を任せると、ドライに考えるべきだ」と述べ、この議論は次の<スタートアップエコシステムに欠けているもの>へとつながります。
◾️現在の日本のスタートアップ・エコシステムに欠けているのは‘何’なのか
ミルスタイン氏は、「日本のスタートアップ・エコシステムにかけているものは、マネジメントタレントだと感じる。自分よりできる人を限られたプールの中でどのように集めるかが難しい」と話しました。
福田氏はマネジメントについて、「マネジメントにプレミアムがつけられるか、日本がメンバーシップ型からパートナー型に移行できるかどうかがキーポイント。女性がなかなか偉くなれないのはジョブ型になっていないことが原因の一つだという研究結果がある」と述べ、女性活躍について、「企業のガバナンスを見ると、女性活躍を推進している企業は企業価値が高いとされ、株価も平均よりもアウトパフォームする。日本の場合、GDPは世界4位だが、ジェンダーギャップ指数は125位。ジェンダーギャップが少ない国の方がイノベーションを起こしており、多様性を認めていないことが、イノベーションを阻害しているといえるのではないか。人材の流動性も含めて、イノベーションの実現には女性活躍や多様性を認めることが非常に大切」と考えを示しました。
女性活躍について、ミルスタイン氏は、「起業する女性が少ないのは、ベンチャーキャピタル(VC)側に女性が少ないことも起因するのでは」と述べ、池田氏も、「多くの機関投資家と話をしていて、女性は少なくはない印象だが、確かにVCに女性は少ない印象」、富原氏も、「日本は、就業者に占める女性比率は諸外国とほぼ同レベルとなっているが、役員や管理職の女性比率が著しく低い。その中で、女性起業家の比率は、上場企業での女性経営者の比率よりは大分多いが、まだまだ足りない」と、それぞれの視点で女性活躍が少ない日本経済の現実を伝えました。
丹下氏は話題を変え、「今は起業家が、投資家が投資しやすいビジネスモデルを作っているため、スモール上場にならざるをえない。例え投資が得られなくても、自分のやりたいこと、自分の延長線上にあること 世の中が困っていることを勇気を持ってやろう」と力をこめました。
池田氏も、「エコシステム自体がエグジットしやすいところでずっと回っていて、IPOに向かっていくうちにスモールになっていく」と指摘し、ミルスタイン氏も「投資家に合わせていくと何も生まれない。エグジットが大切でなく、どのような価値を作るかが大切。もっと大きなところを目指そう」と話しました。
「アメリカの投資家に、日本はエコシステムはできているけど、ミニチュアだよねと言われた」と苦笑いで述べた富原氏はさらに、「フランスでは、政府がエコシステムのグロースとグローバル化にこだわったことで、ユニコーンの数が少しずつ増えてきた。最近で言うと、政府が大企業に、スタートアップ調達の行動計画を作らせ、スタートアップとの提携の数をモニタリングしている。このような政府の様々な取り組みによって、イノベーションエコシステムを持ち上げる主体としてのスタートアップ、経済を変革するためのスタートアップを創出しようとしている。日本でもエコシステムのレイヤーを上げて、グローバルと接続していくことが大切ではないか」と述べました。
そしてミルスタイン氏は、「日本ではM&Aが悪い印象を持たれることがあるが、M&Aは人材の流動、業界の成長につながる」と話し、富原氏も「M&Aは健全な選択肢の一つである。プロアクティブに考えよう」と話しました。福田氏も、「本来コングロマリットはプレミアムになる可能性があるが、ディスカウントされている日本の状態を不思議に思う。原因はM&Aした会社をうまくマネジメントできていないからではないだろうか」と述べ、池田氏も「M&Aされる側も、それをいいことだと捉えてほしい。また、その雰囲気を作り出していきたい」と、話題が再びM&Aに戻ったところで、各登壇者からメッセージをいただき、まとめに入りました。
◾️起業家の成功を支えるために、我々は‘何’をするべきか (今日の気づき)
ミルスタイン氏
「投資家が投資する時、ベンチャーエコシステムの中で同じ船に乗っている。どうやって大きな会社を作るかをともに考え、これからも頑張っていきたい」
富原氏
「ここ数年で世界的な成長事例が日本から出てくるかどうかが今後の鍵となる大事なタイミング。行政もスタートアップ創出に本気になっている。ぜひうまく利用してほしい」
丹下氏
「10兆円スタートアップの生み出すにはまず、10兆円、100兆円を目指そうとすることが重要。それは自分たちの強みでやらなければ勝てない。そして起業家や社長だけではなく、企業全体や企業を取り巻く環境全てがエネルギーの満ち溢れた共同体となり、みんなで大きな船を動かすということを意識しよう」
福田氏
「登壇者のみなさんは向いている方向が一緒だと感じた。強い日本を作るため、それぞれのおかれている立場で頑張っていきたいという気持ちが伝わった。私の出来ることとしては、企業開示やエクイティストーリーなど、悩んだ場合はいつでも協力したいので、相談してほしい」
池田氏
「マーケットを運営している立場から、どんな仕掛けや雰囲気を作っていくかに、今後も尽力していきたい」
最後は、ファシリテーターの長井氏の「今、スタートアップにフォローの風が吹いている感覚がある。ここから皆で力を合わせて加速度的に盛り上げていきたい」というメッセージで締め括られました。
本イベントを通して、WeWork のコミュニティが注力している「DEIカルチャーの醸成やオープンイノベーションの促進」は、10兆円スタートアップが育つ過程や環境づくりにおいて非常に重要であるということを改めて認識しました。WeWork Japan は今後も、日本のスタートアップエコシステムの中で、人や企業をつなぎ、変化を生み出すプラットフォームとして、日本経済の成長に寄与してまいります。