Updated:2022.11.15
IDEOが語る、デザインとクリエイティビティで捉える新しいビジネスの在り方
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なぜ、新規ビジネス創出にデザインやクリエイティビティが大事なのか?
ワークショップでデザイン思考を実践
クリエイティビティを高める空間なら WeWork
かつてないスピードで社会状況が変化する今、企業は新しいビジネスやサービスの創出を求められています。しかし、新しいアイデアを検討したり発展させたりするために、「いったい何から始めればよいかわからない」という声もよく聞かれます。
本ウェビナーでは、ゼロから何かを生みだす際に必要となるクリエイティビティやインスピレーションはどこから来るのか、どうすれば得られるのかについて、デザイン思考(Design Thinking)にのっとってグローバルにデザインコンサルティングサービスを展開するIDEO Tokyoの松本 哲郎氏が解説します。
【目次】
- IDEOとは?
- IDEOを支える三つの特徴
- なぜ、新規ビジネス創出にデザインやクリエイティビティが大事なのか?
- ワークショップでデザイン思考を実践
- クリエイティビティを高める空間なら WeWork
IDEO Tokyo シニア・ビジネス・デベロップメント・リード 松本 哲郎氏
慶應義塾大学環境情報学部にて建築デザインを学び、グロービス経営大学院にてMBAを取得。博報堂にてストラテジック・プランナーとして国内外さまざまなビジネスのコミュニケーション戦略立案、新商品開発、ブランディングなどのマーケティング活動に従事。デロイト・トーマツ・コンサルティングでは、日本の観光コンテンツ資源のインキュベーションや組織変革の支援業務を担当。クライアントの事業成長と組織変革を支援することを通じて、日本社会にポジティブなインパクトをもたらすことをミッションとしている。
IDEOとは?
IDEO(アイディオ)は米国カリフォルニアに本拠を置くデザインコンサルティング会社で、1970年代からデザイン思考を実践しながら世界各国で事業を展開してきました。Appleの初代量産型マウスや、ニュージーランド航空のソファ型シートといったプロダクトのデザインだけでなく、「新しいサービスや体験をデザインするには?」「新しく作る学校にふさわしいカリキュラムとは?」「新しい自動車保険体験をデザインするには?」「どうすればITからデジタルへシフトできるか?」というように新しいサービスや事業を作る、組織を変えていく際に生まれる問いに対し、デザインの力を使ったコンサルティング支援をおこなっています。
最近ではデジタル分野の新しいサービスや事業にかかわっている人に欠かせない、「より良い体験が提供できないだろうか?」というご相談から一歩踏みこんで、経営に携わる人から企業のビジョニングのサポートを依頼されることが増えてきました。将来的に自分たちが「こうありたい」と願う姿を目指すべきパーパスとした場合、それを実現するために5年後や10年後に取り組んでいくべき事業に何があるだろう? といったご相談です。
IDEOは決まったプロダクトを売るわけでなく、依頼主と共に問いを立て、未来の兆しをつかみながら、デザインとクリエイティビティを活用しながら、生活において欠かせない体験を具体化していく会社だと言うことができると思います。
IDEOを支える三つの特徴
IDEOの働き方を支える特徴のひとつに、人材の多様性が挙げられます。不確実な世の中では、さまざまな専門性を持つ人たちが問いを携え、協力しながら新しいものを作っていくことが必要であるという考えのもと、シェフや医師、ジャーナリストなどそれぞれ異なったバックグラウンドを持つメンバーがチームに入り、多様なスキルを活用することを大切にしています。
それとセットで生きてくるのが、人間中心的なデザインです。新しいサービスや事業を作るときに多くの企業が注目するのが「いったいそれは利益を生むのか?」という点、つまりバイアビリティ(Vialibity)です。また、新しいテクノロジーを使ってサービスや事業を作るときに、資産などのアセットを考慮しなければならないと考える企業も多く存在します。これら二つの視点はきわめて重要ですが、IDEOはその視点からさかのぼって、人(People)という視点を大切にしています。事業の継続性や利益、どのようなアセットをどう使えるか? ということ以上に、まずは人のニーズにのっとって困りごとに寄り添ったなら、人の生活をどのようにより良くできるだろうか? という視点を常に持っています。利用者やターゲットの立場に立ち、エスノグラフィのような観察やインタビューを通じて、定量調査でなく n=1、つまり個人の生の声を聞くことにより、どのような未来が必要とされているか? を紐解いていくことに重点を置いています。
最後に挙げられるのが、デザイン思考のアプローチです。デザイン思考とは、ある特定の正解やゴール、ソリューションを目指してまっしぐらに突き進むというアプローチではありません。むしろ、探索から始まります。ユーザーの生の声を聞くリサーチを通じて世の中の兆しをつかみ、得られたデータやファクトを意味づけしながらまとめ、ブレインストーミングによってそれをアイデアとして広げていき、その中で有効かもしれないと考えたアイデアのプロトタイプ(試作品)を素早く作り、実際にユーザーに見せてフィードバックを得て……というサイクルです。もちろん、このサイクルは一回で終わらないことがほとんどなので、常に不確実性が高いものと戦っているという印象です。これがIDEOの仕事です。
なぜ、新規ビジネス創出にデザインやクリエイティビティが大事なのか?
「新しいビジネスやサービスの創出にはクリエイティビティ(創造性)が大事」と言われますが、ビジネスとクリエイティビティやデザインがどうつながるのだろうと疑問に感じる人も多いでしょう。私はここで、自分自身が働いてきた中で感じてきた五つのポイントを紹介します。これらが必ずしも正解というわけではありませんが、なぜ新しいことに挑戦する際にクリエイティビティが大事なのかを考える際のヒントとなればと願います。
1 正解の価値が変容しているから:How might we …?
今ほど正解や予測、最適化というものがコモディティ化(無価値化)している時代は、これまでなかったでしょう。目まぐるしく変化する現代では、正解の価値が以前とは変わってきています。
これまで、たとえば高度経済成長時代などには、明確なゴールや正解がありました。ゴールや正解に対する現状があり、人々はその差分を埋めていくことに力を注いでいました。現状との差を効率よくたどり、埋めていくことが第一に求められていたし、それが今までの経済合理性を形作ってきたのです。
しかしグローバル化が進み、価値観が多様化し、モノやサービスが飽和状態の今、特に先進国においては以前のようなゴールや正解はなくなってきています。私たちIDEOも「未来はどうなるのでしょうか?」と相談されることが多いのですが、私たちにもわかりません。ですから、未来がどうなるかを考えるよりも、「未来をどうしていきたいのか?」という問いをクライアントやパートナーと一緒に考えていくことのほうが大事だと考えています。未来をどうしたいのか? を考えていくと、正解探しや問題解決が目的ではなくなってきます。
今は、かつての正解探しの時代が終わり、どのようにしたら良質な問いをチームや組織が立てられるかが問われる時代です。多くの場合、正解というものはきわめて論理的に考えていくと、ひとつに集約されますが、その場合クリエイティビティはそれほど必要なくなってしまうとも言えます。一方、問いを立てることは、とてもクリエイティブな活動です。たとえばIDEOでプロジェクトを始める際は、「この特定のソリューションを目がけて作っていこう」というアプローチを採用しません。目の前にある仮説以外にも、たくさんの可能性がまだ残されているという考えに基づき、「どのようにしたら理想的な状態にたどりつけるだろうか?」という問いを作りながら、課題を再定義することがほとんどです。そのときに使うのが、How might we …? というフレームです。実際の業務においてこの問いは、フレームとして以下のような形をとります。
問いには正解がないため、チームとしてもクリエイティブになれるシーンです。「新しい保険のサービスを一から構想するには、だれに会えばいいのだろう?」など具体的な問いにすることによって、さまざまな解決策が生まれる状況を作ることが可能になります。IDEOでも、問いを立てたらすぐに壊して作り直すという作業を繰り返しています。
今日、私からみなさんにお尋ねしたいことは、こちらです。
みなさんはチームと一緒に、これからどんな問いを立てていきたいですか?
2 意味があることを創るべきだから:What impact do you want to create?
新しいモノやコトを創出する際、今までの成功基準で考えるのがどんどん無意味になってきています。パブリックスピーカーで経営コンサルタントの山口 周さんのたとえをお借りすると、「役に立つ」という機能軸だけで勝負しようとすると、新しいモノは生まれにくい時代になりつつあります(『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』ダイヤモンド社、2019年)。たとえば日本の高度経済成長期は性能の良いモノをより安く、より効率よく作り、提供することに価値が置かれてきました。より薄い大型テレビ、より燃費が良い車、より機能が多い家電、より出力容量が高い電気自動車のバッテリーなどを想像するとわかりやすいです。ところが、世界の工場と言われるような国や地域に目を向けると、「役に立つ」ものは市場にあふれており、すでにそれを上手に製品化して販売できる会社が鎬を削っているレッドオーシャン状態です。
それに対して、これからはいかにユーザーにとって「意味がある」体験を創るかに注目が高まっており、価値軸のシフトが進んでいると言えます。そして「役に立つ」モノやサービスが飽和している時代においては、サービスや体験の意味やストーリー自体が重視されるようになります。ここで大事になる視点である「意味がある」は、線形的な思考やロジックではなかなか創り上げられないということです。ではその際に、私たちは何を頼りに「役に立つ」の創出に臨めば良いでしょうか?
前項で How might we …? の問いを見ましたが、ユーザーにとって「意味がある」モノやコトをデザインするには、最終的にその人に対してどのような「インパクトや変化をもたらしたいか」「どのような理想的な生活や体験を届けたいか」を考えることが重要になります。
IDEOでは、パーパスを考えているクライアントと協業する際、「Purpose Wheel」というツールを活用しています。これは、パーパスを区分して図のようなホイールにまとめたツールです。この枠組みを活用することで、組織にかかわるあらゆる人々が「どんなふうに、世界にインパクトを与えられるのか?」という問いについてさまざまに思いを巡らせることができ、結果として組織の目的意識を浮かび上がらせることができます。中心部分では、「利益以外の存在意義はどこにあるのか?」を考えます。外側のグレー部分には「どうやってそれを実現するか?」の具体的な方法を並べています。両方を組みあわせ、自分たちはどのような変化を作ることができるのかを考えるツールです。
内側のホイールで自分たちの存在意義を見つけ出すことができれば、具体的にどういった方法でユーザーに価値を提供すればよいかを考えられるようになります。利益が出るか・出ないかでなく、どのようなインパクトを作れるか・作れないかという問いにすることで、結果的にユーザー自身にとって「意味がある」体験を提供できるようになっていく可能性があります。
あなたは、どのような理想的な状態やインパクトを作りたいですか?
3 共感こそが武器だから:Who did you empathize with today?
これまでの時代では、ゴールや正解を現状と比較してその差を埋めるための最短ルートを最速でたどるのが正義でした。イシュー・ツリーを書いて戦略オプションを洗い出し、評価軸を立て、評価するというのが問題解決の要諦でした。その際に使うのはクリティカル・シンキングやロジカル・シンキングという武器です。
ところが、正解がない時代においては、ロジカル・シンキングには限界があります。今価値を生んでいるサービスを創出している企業は、ロジックの積み上げで新しい構想を世に出しているわけではありません。たとえば、ある民泊サービスを提供するベンチャーは世界中で自由に宿泊先を探したいと考える人と、遊休している部屋を使ってビジネスがしたい人々をシームレスにつなぐプラットフォームを作り上げました。注目すべきは、彼らが固定資産である不動産を、ひとつも所有していないことでしょう。不動産を持たずに宿泊業を担うなんて、ロジカルに考えたら絶対に成し遂げられないことなのです。しかし彼らは、今や米国の大手ホテルチェーン5社の企業価値の合計を上回る時価総額を誇っています。また、ある動画配信サービス企業は、レンタルビデオの延滞料金を払いたくない、好きな作品をずっと見つづけたいというユーザーの要望を叶えたいと考えました。こちらもロジカルに考えていたら利益は出ません。しかし、世界でもトップクラスの視聴者数を誇るほどに成功をおさめています。
これらの企業は、ロジカルに考えたら絶対に成し遂げられないことを実現しているのですが、何が根底にあるのでしょうか? それはロジックの積み上げ以上に「だれに対してどのような価値を提供したいか?」を徹底的に考え、自社の顧客への共感を大切にすることです。空いている部屋をどうしたら有効活用できるだろう? どうしたらもっと出会いあふれるエキサイティングな旅の体験を提供できるだろう? 延滞料金がないと、どんなに楽だろう? ずっと見ていたい映画やドラマを保有できる喜びはどうしたら実現できるだろう? このような問いを立て、ユーザーの立場に立った模索をしてきたのです。
新しいことを考えるときに、「デザインしたいと思っている対象の立場にどれだけ立てるか?」や「その人にどれだけ憑依できるか?」が欠かせません。IDEOは、電気自動車のバッテリーを作る企業と一緒にエネルギーの未来を考えるプロジェクトを実施しました。オフグリッドで実現するエネルギー循環型のライフスタイル、エネルギーを自足的に作れるような環境をどう考えるかをチームで考えるというものです。そこでデザイナーたちは、東京郊外の河川敷に一週間滞在し、ノートパソコンとソーラーパネルを使って仕事をし、オフグリッドで生活することがユーザーにとって意味することやハンディキャップを、共感を働かせて体験したのです。
新しいことを考えるときに定量調査を実施したりホワイトペーパーを見たりすることも意味がありますが、それ以上に大事なのは、いかにお客さんやユーザーの気持ちに寄り添い、共感しつづけられるかに尽きます。ロジックや分析で解決できないときは、共感を武器として使ってみるのが良いでしょう。
あなたは今日、だれに共感しましたか?
4 クリエイティビティは経営資源だから:What creativity nurturing rituals do you want to start?
「デザインやクリエイティビティは事業へ貢献しているのか?」「デザインやクリエイティビティで、どのように利益を出せるのか?」という質問も多くいただきますが、経営資源としてのデザインのリターンは実際に証明されています。
2016年に行われた Design Management Institute の調査では、デザインに注力している企業の平均株価が米国の代表的な500社に対して2倍以上のパフォーマンスを発揮していることがわかっています。
参考:The Value of Design – Design Management Institute
日本でも、2018年に経済産業省と特許庁が発表した「デザイン経営宣言」において、ブランドとイノベーションを通じて企業の産業競争⼒の向上に寄与する「デザイン経営」の推進を提唱しています。Chief Design Officer などのデザイン責任者を経営チームに入れることや、事業戦略の最上流にデザイナーを入れるといった具体的な取り組み方を紹介しています。
デザインが共通言語として話され、組織の原動力として活用するにはやや時間がかかるかもしれませんが、まず取り組める第一歩としては、組織に所属するひとりひとりそれぞれが、自分がクリエイティビティを発揮して新しい挑戦ができるという自信を持つことだとIDEOは考えます。
日本人は世界の調査結果を見ても、トップクラスのクリエイティビティを持つ国民性と認識されており、実際これは真実だと、私自身は感じています。クリエイティビティが高いひとりひとりが社会参加しているものの、組織や組織文化などがそのクリエイティビティを発揮できない状態にしているのではないでしょうか。IDEO創業者であるデヴィッド・ケリーと共同経営者のトム・ケリーは、組織としてクリエイティビティを発揮していくときに大事なのがひとりひとりが自信を持って創造性を発揮する、つまり「クリエイティブコンフィデンスを持つことだ」と言っています。
IDEOでは、自信を持つことを実践するために、さまざまな習慣や取り組みを実践しています。たとえば火曜日と木曜日のランチタイムには必ず、当番制でスタジオの前で発表をする機会を作っています。発表する内容やテーマに決まりはありませんが、自分が最近インスピレーションを受けたものを紹介することが暗黙のルールになっています。ある人は和菓子屋の暖簾のデザインを研究し、ある人は自分の好きなカードゲームについて発表します。個人が好きなこと、インスピレーションを受けたものを共有することで、聞いているメンバーも明日から使える知識が身についたり、好奇心が刺激されたりしますし、発表する側も自分が特別に興味を持っている領域やテーマについて周りに知ってもらうことで、その後、会話が発展するという流れが生まれます。他にも個人やチームのクリエイティビティを高める習慣や行動が存在します。たとえば、ある金融機関のコンサルティングプロジェクトに取り組んでいたチームは、毎日の朝礼として、チームで踊るという習慣を取り入れていました。ともすると難しい金融商品の話で思考が固まってしまうことが考えられますが、踊りというきっかけを作ることで、思考の柔軟性を刺激する機会を毎日取り入れようとしていたのです。さらにこの習慣の利点として、チームメンバー同士がお互いにひょうきんな姿をさらけだすことにより、チームの心理的安全性が絶対的に向上するということが挙げられます。ちょっとピントがずれたアイデアでも積極的に提案して良いんだという許可感が醸成されるため、チーム全体がクリエイティブになる機運が生まれ得るのです。
IDEOにはこうした、チームや個人のクリエイティビティを開花させる習慣や取り組みが豊富にあり、私たちはこれらの効果を心の底から信じています。
あなたはどのような新しい、クリエイティビティを育む習慣を取り入れたいですか?
5 新しい組織能力の獲得が必要だから:What organizational capability do you wish to grow?
今は、新しい事業や挑戦をする際に、新しい組織能力を獲得することが求められることが多くなっています。たとえばIDEOでは、よりイノベーティブな事業やサービスを作るために創造性を最大化しなければなりませんが、常にチームが自由に発想する環境を整えるために、七つのバリューというものを掲げています。今は不確実性が高い時代ですが、そんな中でも新しい発想を生み出しつづけるためには「不確実性すら楽しむ」必要があります。それとセットで「未来を楽観的に考えること」も挙げられます。また、ひとりで何かを生み出すことが難しくなっているため、積極的に「共創をする」と同時に、おのおのが「オーナーシップを持ってチャレンジに取り組む」ことがとても大切です。チームでいろいろと発想をめぐらせ、アイデアを出すところまでいく会社は数多くありますが、大事なのは、アイデアは発想するだけでは1mmも価値を持たないということを意識することです。アイデアは形にして検証しなければならないため、「口を動かすのではなく、手を動かす」ことが今まで以上に大事になっています。またアイデアをどんどん形にして試していくと、たくさんの場数を踏みながら失敗もしていくものです。よって、いかに「失敗から学び、次につなげるか」が肝要となります。最後に、世の中にインパクトを与えることはひとりでは達成できず、周りの力が必要です。ですから、お互いが気持ちよく共創できるように「お互いを成功させる」ことを意識するのが鍵だったりします。
最後に、IDEOがご支援をした大手総合商社さんでも、このような組織文化を整える必要があったことを紹介します。この企業は、今までの資源を調達してつなぐ従来型のビジネスモデルと並行し、自らリスクをとってゼロから事業を生み出す企業として成長していく過程を歩もうとしていました。しかしながら、世の中の流れを汲み、生活者視点でアイデアを考え、形にしていくという組織能力を持ち合わせていませんでした。社内にはデザイナーがおらず、クリエイティビティを重視した組織風土ももともとなかったため、IDEOはこのような事業転換を推し進めるためのビジネスインキュベーションラボを作りました。社内のアイデアピッチを通過した社員がこのラボに入り、IDEOのデザイナーと二人三脚で一緒にビジネスを育てるということをしたのです。3年の間、WeWork アイスバーグ を拠点とし、ビジネスのアイデアを持つ人のサポートに加え、ラボのパーパスや空間をデザインしたり、ラボのブランディングを行ったりと、モノを作り、試して失敗することをいとわない人材を採用し、育てるなどして、最終的にこの企業の組織文化づくりを担いました。
一筋縄ではいかないかもしれませんが、新しい挑戦をする会社には、組織にとっても新しい能力が必要です。
あなたは自分の組織やチームで、どのような能力を最も伸ばしていきたいですか?
ワークショップでデザイン思考を実践
2022年10月11日、デザイン思考のワークショップが WeWork 日比谷フォートタワー にて開催され、さまざまな企業に属する20名が参加しました。冒頭に松本氏からデザイン思考とは何かに加え、デザインリサーチや問いの立て方、ブレインストーミング、プロトタイピングの具体的なやり方についての説明を受け、「どのようにしたら、日常的に薬やサプリを飲む人の服用体験を良くすることができるだろうか?」という課題に取り組みました。
ワークショップ終盤では、ランダムに分けられた四名一組の五チームがそれぞれ自分たちで用意したプロトタイプを用いてストーリーテリングに挑戦。デザイン思考を使って新しい体験を創出するための一連の作業を体験しました。
参加者からは「日々の営みにデザイン思考を取り入れていきたい」「デザイン思考は書籍などで読んで理解していたが、実践と修正がとても大切だと体感できた」「社内教育や商品開発に生かしたい」など、自らの手を動かして一通りやってみることで、ひとりひとりが新たな発見や気づきを得られる貴重な機会となりました。