jinjerとNPO法人Future Seedsの出会い
WeWork の賛同で活動は次のステージへ。見えてきた「CSRの共創」
WeWork は単なるシェアオフィスの機能を超え、企業や個人がつながり、新たな価値を共創するためのプラットフォームでもあります。WeWork Dタワー西新宿を拠点とするjinjer株式会社は、そのプラットフォームの力をCSR(企業の社会貢献活動)の成果拡大に取り入れる挑戦をスタートしています。同社が中心となり進める企業版プロボノ活動「MOVE ON PROJECT」をご紹介します。
jinjerとNPO法人Future Seedsの出会い
企業単独では取り組みが難しく、社会に大きなインパクトを与えにくいCSR。これを WeWork のネットワークで、より意義あるものにしようという試みが進行しています。その中心にいるのが、 WeWork Dタワー西新宿に本社を構えるjinjer株式会社です。同社は、人事労務・勤怠管理・給与計算をサポートするクラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供しており、事業で得た知見などのアセットを生かし、社会課題の解決を目指す企業版プロボノ活動「MOVE ON PROJECT」をCSRとして推進しています。
同活動の一つに、岩手県を地盤とする特定非営利活動法人(NPO法人)「Future Seeds」とのパートナーシップで進める「コミュニティフリッジ」があります。コミュニティフリッジとは、「地域コミュニティの冷蔵庫」を意味する言葉で、ひとり親家庭など支援を必要とする方々に、協力者から集めた食料品や生活必需品などの寄付品を無償で提供する活動です。
jinjerの広報カルチャー推進部ジェネラルマネージャーの中村景一氏は、Future Seedsとの出会いについて、こう説明します。

株式会社jinjer 広報カルチャー推進部ジェネラルマネージャーの中村景一氏
「岩手県とのご縁があり、県が主催する県内のNPOと都内の企業のマッチングイベントに誘われました。そこでFuture Seedsの存在を知り、活動に興味を抱きました。
当社は、人事労務業務の改善・効率化を通じて広く社会に貢献している企業だと自負しています。しかし、それは対価を得る事業活動の一環です。売り上げにつながらない活動であっても、DXの知見を生かして社会に貢献すべきだと考え、MOVE ON PROJECTのオーナーとしてプロジェクトを牽引しています。そして、支援先を探る中でFuture Seedsの活動を知り、サポートしていきたいと感じました」(中村氏)
一方、コミュニティフリッジを運営するFuture Seeds理事長の佐藤昌幸氏は、自らのキャリアについて「転機は東日本大震災」と語り、活動の背景を明かします。

特定非営利活動法人Future Seeds理事長の佐藤昌幸氏
「震災のあった2011年当時、私は会社勤めをしていましたが、大きな被害を受けた岩手県のために何かできないかと考え、地元の社会福祉協議会の活動に関わるようになりました。その後NPOを立ち上げ、福祉活動に携わり続けています。現在はFuture Seedsでフリースクールを運営、様々な理由で学校に通うことが難しい子どもたちの居場所づくりなどに取り組んでいます。フリースクールに来る子どもたちの保護者から『今日食べる物がない』という切実な声を聞くことがあり、コミュニティフリッジを立ち上げました」(佐藤氏)
現在、Future Seedsが運営するコミュニティフリッジは岩手県内に3カ所あり、支援者から届いた物資を倉庫に集めて食品の賞味期限などを確認のうえ、各コミュニティフリッジへ振り分けているといいます。関わるボランティアは年間のべ1000人に上るといい、活動の規模の大きさがうかがえます。
利用者にとってコミュニティフリッジは、「24時間営業の無人コンビニエンスストアのような存在。利用には事前登録が必要になりますが、無料で棚や冷蔵庫から必要な物を持ち帰ることができます」と佐藤氏は説明します。利用者はひとり親家庭や奨学金で学校に通う学生などです。他にも食料品を提供する仕組みはありますが、Future Seedsのコミュニティフリッジは24時間利用できること、誰にも会わずに利用できることが大きな特徴です。
WeWork の賛同で活動は次のステージへ。見えてきた「CSRの共創」
jinjerがこの活動に本格的に関わるに当たり、中村氏は社内のプロジェクトチームメンバーが佐藤氏と接触する機会を設定。コミュニティフリッジなどFuture Seedsの活動や運営課題について理解を深めていったといいます。
「佐藤さんには WeWork Dタワー西新宿にも来ていただき、運営上の課題や当社メンバーが知らないようなシビアな現実についても教えていただきました。プロジェクトメンバー以外の従業員も物品寄付などで関わる可能性があり、多くの従業員に向けた研修も開催しました。そうした過程を経て、2024年に初めて社内で寄付品を集める活動を実施し、初回の寄付に至りました」(中村氏)

jinjer・MOVE ON PROJECTのメンバー
初回の結果を踏まえ、jinjerではFuture Seedsからフィードバックを受け、より効果的な運用方法を模索するために社内ワークショップを実施。さらに佐藤氏からアドバイスを受けながら活動をブラッシュアップしています。2025年には寄付頻度を四半期に一度と増やす方針を打ち出しましたが、それには寄付体制の強化が不可欠でした。
そんな中、jinjerの活動を知った WeWork Dタワー西新宿のコミュニティマネージャー、大田禎巳が協力を申し出ました。大田は、jinjerの創業5周年記念イベントで、jinjerがCSRの一環としてFuture Seedsへの寄付を進めていることを知りました。その当時のことをこう語ります。

WeWork Dタワー西新宿のコミュニティマネージャーの大田禎巳
「私も2人の子どもを持つ親として、jinjerの活動に共感を覚え、 WeWork としてお手伝いできることはないかと考えました」(大田)
この申し出は、jinjerにとっても大きな意味があったと中村氏は振り返ります。
「当社だけでできることには限界があると感じていました。そのため、WeWork を通じてより多くの企業の賛同を得られないか、また当社のプロダクトのユーザー企業に呼びかけるのはどうかといった意見が社内からも出ていました。しかし、プロジェクトに関わるスタッフはそれぞれ本業があるため忙しく、アイデアを実行に移せずにいました。そこに WeWork から声をかけていただき、当社とのダブルネームでメンバー企業に呼びかけることができれば、活動が一気に広がる可能性があると感じました」(中村氏)
この言葉の背景には、中村氏が描くCSRの理想と信念があります。それは「最初は小規模でインパクトが限定的な活動でも、継続することで賛同者を得て徐々に拡大し、より多くの人の目に留まるようになる。そうすれば、投資家をはじめとしたステークホルダーの理解や評価につながり、プロジェクトに関わる全ての企業や団体に、本業にもつながる何らかのベネフィットがもたらされるはず」、というものです。
今回のjinjerと WeWork の共創関係について、佐藤氏もコミュニティフリッジを運営してきた経験から、こう歓迎します。
「意義ある活動を広めようとする際、これまで『協働』という言葉を使うことが多かったと思います。協働では、活動を主導するトップランナーがいて、そこに賛同する人が力を貸すイメージです。ただ、これからの社会貢献活動の基礎になるのは『共創』だと考えています。最近、コミュニティフリッジでは、利用者自身が『日ごろのお返しをしたい』と、運営を手伝ってくれるケースが増えています。こうして当事者も交えて意見を出し、対等に価値を生み出していく。これこそが『共創』の姿であり、私が理想としているものです」(佐藤氏)
大田の呼びかけによって、jinjerの活動は近隣の拠点・WeWork リンクスクエア新宿にも共有されました。その後、両拠点で賛同企業を募り、 最終的に2つの拠点で実に418もの寄付品が集まりました。集まった寄付は2025年6月中旬にFuture Seedsに届けられ、コミュニティフリッジの利用者の手元に届いています。
こうした機運に対して佐藤氏は、「ぜひ関わる方々が無理なく気軽にできる仕組みを」と、取り組みが継続していくことに期待を寄せます。中村氏も、社内の定例会議で「このプロジェクトの終了条件は『継続的な物資支援ができること』と定めています」と述べ、そのためには文化の醸成がポイントになるといいます。
「最近では自分の中でも、季節が終わって衣料を手放そうとする際に、これまで廃棄やフリマ出品が主な選択肢だったところに『寄付』という新たな選択肢が加わるようになりました。関わる人の中にこうした意識が芽生えることで、息の長い取り組みにつながっていくと思います」(中村氏)
「困っている人に声をかけられないのは、どうしていいか分からないから。全ては知ることから始まります」。長く福祉やボランティアに関わってきた佐藤氏の言葉には重みがあります。jinjerと WeWork がはじめた今回の取り組みが、より大きな輪となり広がることが期待されています。
