更新日:2026.09.18

地方創生を阻む「3つの壁」と突破方法をテーマにトークイベントを開催 堺市×バレットグループによる官民共創の成功事例を紹介

日本の多くの地方自治体が、深刻な少子高齢化や地域活性化などの社会課題を抱えていると言われています。その解決策を民間のテクノロジーやアイデアに求める「官民共創」が叫ばれて久しいですが、実際に「有償での正式契約」や「継続的な街づくりパートナー」にまで発展する事例は極めて稀です。行政ならではのコンテンツ制約、承認プロセスのスピード、契約書の不整合、そして「お試し(PoC)」止まりの他人事スタンス など、そこには綺麗事だけでは語れない、生々しい「協業の壁」が立ちはだかっているようです。

2026年8月6日、WeWork 神谷町トラストタワーにて開催したイベント『自治体×民間の協業はこうして生まれた〜官民共創の「リアルな階段」の登り方〜』では、その協業の壁を、両者が粘り強く取り組み、信頼関係を築きながら解決へと導いた、大阪府堺市東京事務所とIT企業バレットグループの挑戦の軌跡が語られました。

<イベント概要>

日時:2026年8月6日 18:30 – 20:00
会場:WeWork 神谷町トラストタワー
登壇者:

  • 大阪府堺市東京事務所:羽田 貴史 氏(所長)須摩 彩 氏
  • バレットグループ株式会社:若月 翔 氏(プリセールス / エンジニア) 、原田 奈々 氏(SNSマーケター) 
  • ファシリテーター:筏 政人(WeWork コミュニティマネージャー)

1. すべてはコミュニティマネージャーへの「フラットな相談」から始まった

堺市東京事務所とバレットグループ。一見、文化も活動領域も全く異なるこの2つの組織が巡り合った起点には、WeWork のコミュニティマネージャーならではの、徹底的な「媒介力」がありました。

バレットグループのプリセールス・エンジニアである若月翔氏は、関西や広島などでの地方創生の実績はあるものの、東京で新たな自治体との繋がりをどう構築すべきか頭を悩ませていました 。その際、若月氏がとったアクションは、当時入居していた、WeWork リンクスクエア新宿 のコミュニティマネージャー 筏 政人 への「フラットな相談」でした。

筏は、WeWork が主催するマッチングイベント「自治体リバースピッチ(自治体サミット)」への登壇を提案しました。

「単なるオフィスのコンシェルジュ」であれば、入居メンバー(企業)のビジネス相談をここまで親身に追いかけ続けることはないかもしれません。入居メンバー同士の成長を本気で後押しする「コミュニティチーム」が常駐している WeWork だからこそ、このマッチングへの一歩目を踏み出すことができたといえるのではないでしょうか。

2. 「単なる名刺交換の場ではない」リバースピッチと、現場の熱意が引き込んだ奇跡

堺市の提示した3大社会課題と、バレットの逆提案

WeWork が主催する「自治体リバースピッチ」は、自治体側が現在直面している「リアルな課題」をオープンに提示し、参加企業側がそれぞれの技術やサービスを活かした具体的なソリューションを提案するマッチングイベントです 。このイベントで、堺市東京事務所は地方都市が共通して抱える3つの深刻な課題を提示しました。

 

  1. 泉北ニュータウンの活性化(まちびらきから60年が経過し、急速な少子高齢化、住人の移動や買い物難民化などの課題が山積) 
  2. 世界遺産「仁徳天皇陵古墳」を活用した観光客の消費単価向上(効果的な誘客施策を模索中)
  3. 無人自動運転バスの運行と東西交通網の確保(運転手不足による路線撤退が進む中、先端MaaS技術の社会実装が急務)

 

これに対し、バレットグループは「自分たちのエンジニアパワーとSNSマーケティングの強みを掛け合わせたら、何ができるか」を社内で徹底的に議論 。デジタルとリアルを融合した3つの具体的なソリューションを提示しました。

 

  1. 市民の声を見える化:LINE公式アカウントの配信とワンタップアンケートの導入 
  2. データを政策改善へ繋げる:アンケート集計結果のAIを用いた高度な分析 
  3. 観光消費の促進:堺市の名物キャラクター「ハニワ部長」を活用した、多言語対応チャットボットの開発

 

イベントの結果、両者は見事にマッチングを成立させました。堺市側の実務担当者である須摩彩氏は、「当時、リバースピッチに参加していた他の民間企業はすでに内容や製品を知っているところばかりであった中、唯一「全く初めて聞く会社」であったバレットグループの熱量に惹かれた。また、最初に出会ったWeWorkの空間が、形式的な商談ではなく、相手の人柄や熱意を直感的に感じ取れる場所だったからこそ、一歩踏み込んで選ぶことができたのだと思います」と語りました。

左から、大阪府堺市東京事務所 羽田 貴史 氏(所長)、須摩 彩 氏、バレットグループ株式会社 若月 翔 氏(プリセールス / エンジニア) 、原田 奈々 氏(SNSマーケター) 

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3. システム開発提案から「3ヶ月無料のSNS運用トライアル(PoC)」への大胆な転換

マッチング成立後、両者はすぐに開発フェーズに入ったわけではありません。バレットグループは「なぜなぜ分析」を重ねる中で、課題を解決するためには「豪華なシステムを作るよりも、まずは堺市東京事務所の発信力を強化して認知度不足というボトルネックを解消することが、最も始めやすいファーストステップである」という結論に至りました 。

しかし、少人数で日々の業務を回し、かつSNS運用のノウハウやアドバイザーも周りにいない東京事務所の現場にとって、外部への有償委託稟議を通すのは極めて困難な状況にありました 。

そこでバレットグループは、自治体側の「失敗のリスク」を完全に取り除くため、「3ヶ月間無償の公式X(旧Twitter)運用代行トライアル」という驚くべき実証実験(PoC)を提案したのです。

この提案に、須摩氏をはじめとする現場メンバーは業務負荷の軽減を喜んだ一方で、本庁のアカウントとの違いや、堺市としての熱量を民間企業にどう伝えていくか、という懸念も同時に抱きながら実証実験がスタートしました。

4. 官民共創の現場に立ちはだかった「3つの壁」とその突破口

協業が開始されたものの、民間企業と自治体の間には、特有の「リアルな協業の壁」が立ちはだかりました。

1. コンテンツ制約の壁 

  • 課題:民間感覚として「バズる、伸びる」と確信した尖った企画を出しても、行政としての正確性や公共性を担保するルール(本庁からの差し戻しなど)と噛み合わず、差し戻しが発生 。
  • 突破口:定例ミーティングの場で「なぜこの投稿が不採用だったのか」を双方が徹底的に本音ベースで対話。行政が譲れない一線と、民間が発揮したい自由度を摺り合わせることで、2ヶ月目、3ヶ月目には差別化された理想的な投稿スタイルを確立しました 。

2. スピードの壁 

  • 課題:行政特有の承認フロー(庁内調整や外部部署確認など)に1〜2日を要し、SNS特有の迅速なトレンドハックが困難な状況に。
  • 突破口:お互いのやり取りや投稿承認フローを可能な限り定型化し、認識の齟齬を極限まで低減させる運用フローを構築しました。

3. 結果に対する信頼性(KPI/KGI)の設計

  • 課題:SNS上のエンゲージメント数値が、どのように実際の「堺市への地域還元」や「政策課題の解決」に紐づくのか、評価基準が曖昧であったこと。
  • 突破口:夢物語のような一過性のバズを追うのではなく、数年先の将来像を見据えた「現実的な数値ゴール」を設定。まずは「一歩アクションを起こして分析データを蓄積すること」の重要性を合意して進めました。

さらに、無償実証実験から正式契約へ移行する際には、自治体と民間企業の間で「契約書の書式が合わない」「無償実証実験における責任範囲をどのように定めるか」といった実務上の課題が生じ、契約手続きが数週間にわたって往復する事態となりました。

そうした中、羽田所長は自らバレットグループの本社を訪問し、経営陣と直接対話を重ねたといいます。「官民共創において最後に必要なのは、『この人たちと一緒に頑張っていけるか』という、人と人との関係だと思います」と述べ、手続きを超えた信頼関係を築くことの重要性を語りました。

5. データで証明された「実証実験の劇的成果」と「企業版ふるさと納税」への結実

苦難を乗り越えて実施された3ヶ月の実証実験は、堺市東京事務所の公式Xアカウントにおいて目覚ましい成果を創出しました。

  • 総閲覧数(インプレッション数)42%アップ(首都圏への認知度が大幅に拡大)
  • 1投稿あたりの閲覧数60%アップ
  • 1投稿あたりの反応数6%アップ
  • 1投稿あたりのアクション率24%アップ

(“ただ見られる”だけでなく、“動かす”投稿へ進化) 

この明確なデータ成果をベースに、両者は2026年度より正式に有償のSNS発信伴走業務を締結 。関係性はそれだけに留まらず、堺市の熱い地方創生への想いにバレットグループが深く共感し、同社からの「企業版ふるさと納税」の実施という稀有な形で共創関係が結実しました。

6. WeWorkだからこそ生まれた「官民共創の掟」

イベントの最後、バレットグループの若月氏より、今回のプロジェクトから得られた官民共創に不可欠な3つの教訓が提示されました。

  1. 信頼は提案書では生まれない。価値を先に届ける
    当初の綺麗な提案書の通りにいくことはほぼない。無償PoCなどで小さく確実に「価値」を先に出し、ウェットな本音ベースの対話と現場での泥臭いコミュニケーションを積み重ねることでしか、本当の信頼関係は生まれない。
  2. 契約は信頼のゴールではない。一緒に進むことから始める
    有償契約を結ぶことが目的ではない。そこから先の、2年後・3年後、さらには10年先の将来の街づくりを見据えて、パートナーとして一緒に歩み続けることが真の共創である。
  3. 担当者ではなく「当事者」になる。仕事の関係を人の関係へ
    「受注者」という他人事のスタンスではなく、地方創生を担うパズルの1ピース(当事者)として現場に何度も足を運び、街を好きになり、雑談を重ねて「人と人」の関係性を築くことが、あらゆる障壁を突破する力になる。

 

最後に、各登壇者から、未来の官民共創へ挑む方々へのメッセージが送られました。

  • 大阪府堺市東京事務所長  羽田 貴史 氏
    「自治体の課題はどれも似て見えますが、地域や首長によって実情は大きく異なります。A市でダメだった提案が、堺市ならバチッと通ることもあります。また、行政は1年経てば優先順位や環境が劇的に変わります。1年前に通らなかったソリューションが、今なら通るということも多々あります。ぜひ一度の失敗で諦めず、粘り強く何度でも自治体に提案をぶつけに来てください」 

 

  • バレットグループ株式会社 プリセールス / エンジニア  若月 翔 氏
    「単なるイベントの偶然の出会いや名刺交換だけで終わらせず、そこからもう一歩先に踏み出せるかどうかが、本当のスタートです。是非今回の事例を参考に、リバースピッチや官民共創へトライしてみてください」 

 

  • 大阪府堺市東京事務所  須摩 彩 氏
    「民間企業から見ると、自治体は非常に面倒で対応しづらいお客さんに見えるかもしれません。しかし、現場には本当に解決したい地域課題が山積みです。難しいから避けるのではなく、お互いに一歩踏み込んで深い話ができる窓口は常に開いています。まずはご相談いただき、何がダメなのかのフィードバックを重ねて提案を洗練させていってほしいです」 

 

  • バレットグループ株式会社 SNSマーケター  原田 奈々 氏
    「官民共創において、泥臭い苦労や意見の衝突は付き物です。しかし、そこを乗り越える『覚悟』を持ってお互いが進めば、最後は企業版ふるさと納税のように、当初想像もしていなかった素晴らしい形で結びつきます。私たちはこれからも、大好きな堺市の魅力発信に向けて熱量高く挑み続けます」

 

  • WeWork コミュニティマネージャー 筏氏
    「官民共創における数々の障壁を超えるきっかけとなったのは、お互いが人柄や本音を直感的に感じ取れる環境があったからです。 WeWorkという、偶発的でありながらも人の温かみが通い合う空間とコミュニティが、その架け橋となれたのであればこれ以上嬉しいことはありません。全国40拠点以上、多くの大企業やスタートアップ、そして20以上の自治体が集うWeWorkだからこそ、これからもこのような奇跡のマッチングと本質的な事業連携を全力で推進し、地域の力に変えていきたいと思います」 

 

熱気と拍手に包まれた会場は、その後のネットワーキングへと移り、登壇者と参加者によるさらにディープな官民共創の対話へと繋がっていきました。

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