オフィスにおけるコミュニティの創造は、意図的なデザインから
意図的なデザインに加えるべきは、人と人とのつながり
企業のオフィスにおけるコミュニティの未来
あなたのオフィスに、コミュニティの全体像を見ている人はいますか?
ワークスペースはエンゲージメントを育み、イノベーションを刺激し、生産性を向上させる強力なツールです。では、最適なワークスペースとはいったいどのようなものなのでしょうか? 本シリーズ、Science of Spaces(スペースの科学)では、意図をもって実現されたデザインの科学が、どのように労働環境を全人的な体験に変えられるかを探っていきます。今回は、WeWork の中核となるオフィス哲学において欠かせない、そして最終的にメンバーの利益につながるコミュニティについて解説します。
「コミュニティ」は、私たち人間が本質的にもっている感覚です。私たちひとりひとりが重要な存在であり、互いのニーズに応えるという義務や責任を共有しているという感覚です。そのため、多くの企業が自社ブランドに関するコミュニティを顧客に提供することに大きな価値を置いています。
顧客同士がつながり、自分たちが使っている製品やサービスについて話しあうプラットフォームを提供することは、ブランドの露出度と信頼性を高めることにつながります。実際に、多くの企業が、自社のブランド・コミュニティによく耳を傾けることで、自社製品についてのすぐれた洞察を得ています。本物の体験をシェアすることは孤立感を減らし、共有されているトピックやアイデア(つまりブランド)のまわりに人を集めることを可能にします。
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しかし、企業が顧客のためにコミュニティを構築する一方で、個人が孤独を募らせていることも事実です。日本では、政府が内閣官房に孤独・孤立対策担当室を設置し、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題について総合的な対策に取り組んでいます。
コミュニティはどこにでもあるのに、なぜ人々は「自分は孤立している」と感じるのでしょうか? 実は、消費者コミュニティに焦点をあてたビジネスは、伝統的な組織としてのコミュニティが衰退していく中で、その隙間を埋めるだけのものなのです。そのような時代に私たちがしなければならないことは、従業員のコミュニティ体験に再び焦点をあてることです。
WeWork は、コミュニティはオフィス空間とテクノロジーに生命を吹き込む有効な要素であることを強く信じており、自分たちが提供するオフィス体験のあらゆる側面にそれを織りこんでいます。私たちはオフィスの「雰囲気」や「コミュニティ感覚」が、従業員により良いオフィス体験や仕事へのコミットメントを形成し、それが経済的な収益に具体的な影響を与えると考えています。職場に最高の友人がいることと、従業員が熱意をもって業務に取り組む量には正の相関関係があるとギャラップ社が報告しているほど、人と人とのつながりは、従業員満足度とひとりひとりの生産性に欠かすことができません。
参考:Why We Need Best Friends at Work(GALLUP, January 15, 2018)
しかし、オフィスにおけるコミュニティは、どのように作られるのでしょうか? WeWork は、オフィスにおけるコミュニティを、デザインと人が相互に関連しあうエコシステムとしてとらえています。
オフィスにおけるコミュニティの創造は、意図的なデザインから
WeWork のDNAは、メンバーのためのコワーキング・コミュニティを創造することを基礎として築かれています。創業当時は「自宅よりも良い」体験を提供することが重要だからこそ、自分たちが提供するスペースは快適で、カジュアルで、フレキシブルで、利便性の高いものでなければならないと考え、自宅やコーヒーショップ、ホテル、空港のラウンジといった「サードプレイス」と競合してきました。それと同時に、自宅やサードプレイスでの仕事はきわめて便利であるものの、人間の基本的な欲求である「コミュニティ」の感覚を欠いてしまうことにも気づいたのです。
多くの企業はオフィスの各要素を独立して設計し、従業員体験を全体的に考えたり、配慮したりすることがありません。しかし、それぞれのデザインを意図的に行うことで、コミュニティやスペース、テクノロジーは互いに補完しあい、それぞれの部分を組み合わせただけの場合よりも、さらに大きな効果を発揮するようになります。
私たちは、自分たちが提供するオフィス体験の全体を通じてコミュニティを最優先させ、コミュニティを強化するために大胆な決断を下しました。WeWork のコミュニティ・チームを文字どおり、そして比喩的にも、オフィスを結合する組織として位置づけることにしたのです。現在は、WeWork のどの拠点でもエレベーターを降りるとすぐにコミュニティ・バーがあり、そこに足を踏み入れた初日から信頼関係を築くことができる導線が整っています。
また、WeWork の各スペースのデザインは、コミュニティ・バーで始まる信頼関係の構築ジャーニーをさらに強化するものとして意図的になされています。ラウンジやパントリーをはじめとした開放的な共有スペースを設けているのは、一般的なオフィスよりも多くのスペースや空間を他の人とシェアする体験に充てるためです。廊下の幅をあえて狭くしているのは行き交う人たちとのアイコンタクトを促すためであり、内階段はフロア間のつながりを深めるためです。ブレインストーミングミーティングや仲間との昼食会といったちょっとした時間においても、お互いが意図的につながれる瞬間を演出するために、それぞれのスペースがデザインされています。
意図的なデザインに加えるべきは、人と人とのつながり
しかしながら、デザインだけではコミュニティ感覚は育まれません。そこで、専門チームであるコミュニティ・チームの出番です。WeWork コミュニティ・チームのスタッフは、WeWork が掲げるコミュニティ哲学の管理人として、メンバーのオフィス体験をさらに充実させるための戦略を開発・実行する責任を負っています。どのような体験を提供するかを考え、日々の施設運営からイベントまでを人間中心に構成し、無形のサービスに意図性をもたせています。
WeWork のコミュニティ・チームは一般的なコンシェルジュやレセプショニストでなく、ファシリテーターとして、日々、メンバーのニーズやアイデアに耳を傾け、的確な支援を提供しています。ビジネスと日常生活の両方を把握し、大きなイベントもミクロなモーメントも調整し、メンバー企業内やビル全体に帰属意識を生みだすために尽力しています。
たとえば、人と人とのつながりを促進するために、フードやドリンクを活用することがあります。人間は長い歴史の中で、食べたり飲んだりすることにまつわる儀式を通じて、対人関係を構築しコミュニティの連帯を強めてきました。しかし、現代人の食事パターンに関する調査では、回答者のほとんどが「他人と一緒に食事をすることがない」と答えています。ランチタイムにだれかと一緒に食卓を囲むことは、そのような時間をあえて設けないかぎり、まれなことなのです。一方で、人類の歴史を振り返れば、一緒に食事をしたことをきっかけに、ふだん接点がなかった同僚同士が業務で協力しあうようになることが期待できると言えるでしょう。
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フードやドリンク、食事の時間を共有することは、コミュニティを形成するための意図的な手段だと私たちは考えています。ですから、コミュニティ・チームはスナックを出すだけでなく、ちょっとしたポップアップやマイクロモーメント*を用意して、メンバーがお互いより長い時間を同じ場所で共有できるような仕掛けを施しています。
マイクロモーメントは重要です。朝のコーヒーを買うために列に並んでいる間に会話を促す、エレベーターを待っている間に思いついたアイデアについて話しあうといった小さな交流が、より深い人間関係の基礎となるからです。組織は大きなマイルストーンに焦点をあてますが、このような数々のモーメントのためにオフィスはどうデザインされるべきなのでしょうか?
*マイクロモーメントとは、「知りたい」「欲しい」と思ったときにスマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を使って検索する瞬間のこと
これらのモーメントはすべて組織全体の目標の達成に貢献し、強化するためにデザインされるべきレバーです。あわせて、ケアされている、見られている、聞かれている、評価されていると従業員が感じられるようにするためのものです。WeWork では、コミュニティ・チームがそれをサポートしています。
企業のオフィスにおけるコミュニティの未来
WeWork のコミュニティ・チームは特定の企業内の人同士をつなぐことだけに焦点をあてるのでなく、多種多様な企業を結ぶネットワークづくりを支援しています。
たとえば、イノベーションを進め、ビジネスを成功させるために、大企業は小さなスタートアップ企業とつながりをもちたいと望んでいます。また、消費者コミュニティと共同作業をしたり、クラウドソーシングでアイデアを集めたり、インキュベーションを提供したり、ラボを設けたりするといったオープンなネットワークを通じて事業を展開する企業も増えてきています。WeWork であればこのような場合、スタートアップ企業間のパートナーシップやビジネスチャンスの可能性を常に探っているコミュニティ・チームがサポートします。人間は共通の関心ごと、そして物理的な近さによって、つながりを作るという目には見えないチャンスを手に入れるからです。
WeWork Javier Prado 476(ペルー)
コミュニティなくしてイノベーションはありえません。公式でも非公式でも、ネットワークの中で知識や助言を分かちあうことは、イノベーション・ハブの成功に不可欠だからです。
組織が成長し進化していく過程で、WeWork のコミュニティ・チームはサイロ化したチームの関心ごとやイニシアチブを結びつける機会を見つけていきます。すでにつながりがあるメンバー同士を結びつけるのでなく、新しいつながりを仲介する場を探すのです。
WeWork のコミュニティは従業員を自身の顧客と同じように扱うことを可能にします。もし心からコミュニティを中心とした企業になりたいのであれば、従業員のコミュニティも同じように大切に育てなければならないのです。