コミュニティチームの働きかけにより WeWork 入居初日にマッチング
協業を成功させたポイントはビジョンの共有と共感
協業の成果「介護施設向けコミュニケーションサポートロボット」が誕生。互いを尊重しあうことで深まった信頼関係
さまざまな企業が入居する WeWork には、頻繁に行われるイベント、交流を促すオフィスデザイン、またコミュニティチームの働きかけなど、企業同士の距離を縮め、接触を深める仕かけにあふれています。こうした仕かけがメンバー企業相互の理解やシナジーを生み、ビジネスの可能性を広げています。今回は、自動車部品大手TPR株式会社と、プロダクトデザインやエンジニアリングで企業をサポートするKey Fusion Lab株式会社の協業事例を紹介します。
■協業成功のポイント
・挑戦する企業との接触により刺激を受け、変革のマインドを吸収した
・WeWorkのイベントやコミュニティチームを積極的に活用することで親和性の高い協業相手に出会えた
・ビジョンの共有と共感の上に、尊重しあうことで信頼を積み重ねていった
コミュニティチームの働きかけにより WeWork 入居初日にマッチング
─それぞれ事業内容と WeWork 利用の目的についてお教えください。
TPR内田洋輔氏(以下、TPR 内田):当社は、自動車のエンジンやトランスミッションの部品製造を中心としたものづくり企業であり、日本に研究・製造・営業の拠点を複数持つ他、日本、中国、アジア、北米、欧州、南米に事業を展開しています。 WeWork は2020年4月から、新事業開発企画室の6名が利用しており、 WeWork オーシャンゲートみなとみらいをベースキャンプに、他の拠点も活用して新規事業創出に向けた活動をしています。
自動車のパワートレインが電動へとシフトしていくなど市場環境が大きく変化する中で、既存の事業領域とは別に、次世代のニーズを捉えた新事業を模索することが、私たち新事業開発企画室のミッションです。 WeWork を利用するに至ったのは、その動きをさらに加速させたいという思いの他、意欲的に新しいビジネスに挑戦するスタートアップとの接触によって刺激を受け、変革のマインドを吸収したいという思いもあります。
Key Fusion Lab西村修二氏(以下、KFL 西村):私はKey Fusion Labを WeWork で起業しました。前職が WeWork オーシャンゲートみなとみらいに入居している企業だったこともあり、仲間も多くなじみのあるこの拠点で事業をスタートすることにしました。創業は2020年10月と新しい企業ですが、これまで培ってきた人脈や知見を生かし、モビリティ関連の商品・技術戦略、コンセプト段階や製品化に向けた各種のプロダクトデザイン、エンジニアリングなどで、製造業を中心とした企業を支援しています。
─TPRがCoRoMoCoを開発する過程でKey Fusion Labはアイデア検証の支援をされたとお聞きしました。そもそも両社は、どのように出会ったのでしょうか。
KFL 西村:TPRさんと私は、ともにオープン間もないオーシャンゲートみなとみらいに入居し、 WeWork のコミュニティチームにつないでいただいて出会いました。「事業に関連のある企業さん(TPR株式会社)が新しく入居されますよ」と聞き、つないでほしいと伝えておいたところ、入居の際に紹介していただきました。
TPR 内田:たしか、当社が入居した初日だったと記憶しています。西村さんだけでなく、他にも弁理士さんとつないでいただきました。WeWork では、コミュニティチームに希望を話しておくと、拠点をまたいだ紹介も含めて気にかけてくださり、本当に助かりました。
先ほど触れた WeWork に対する期待感にもつながりますが、シェアオフィスというだけなら他にも選択肢はありますが、イベントやコミュニティチームの働きかけによって入居企業同士がつながる仕組みは WeWork ならではの大きな価値だと感じます。
KFL 西村:私も前職を離れて起業する際、よい関係性が構築できていて魅力的な刺激もある WeWork 以外の選択は考えていませんでした。それが今回の出会いにつながりました。
─他社とのつながりが得られるなど、 WeWork は他のシェアオフィスとは異なる機能を持ったワークスペースですが、髙橋さん、加藤さんのファーストインプレッションはどんなものでしたか。
TPR 髙橋風馬氏(以下、TPR 髙橋):私は他社から転職してTPR株式会社にジョインしたのですが、オープンなスペースでいろいろな企業の方が仕事をしている環境に、とても大きな刺激を受けました。
TPR株式会社 髙橋風馬氏
Key Fusion Lab加藤優一氏(以下、KFL 加藤):私は1年半近く前から WeWork で仕事をしていますが、入社前に社長の西村と WeWork で面談した際も、他の入居企業の方がいろいろと気にかけてくださり、一般の企業では味わえない体験をしました。入社してからも、理系の自分にとって、当たり前に仕事をしていたら出会うことのないような仕事をされている方とも接することができ、新鮮な体験の連続です。
Key Fusion Lab株式会社 加藤優一氏
協業を成功させたポイントはビジョンの共有と共感
─そうして互いの認識が徐々に深まる状況から、協業に至るまでの経緯をお聞かせください。
TPR 内田:Key Fusion Labさんとの距離がぐっと縮まったのは、2050年ごろの世界とそこでの在るべき当社の姿を考える「未来年表」を構想することになったのがきっかけです。自社だけだと自己満足で終わってしまう懸念があったため、ダメ出しも含め、より多様な視点をとり入れる目的で、 WeWork オーシャンゲートみなとみらいの入居企業に呼びかけ、未来年表を見ながら一緒にディスカッションしました。Key Fusion Labさんも参加してくれ、会話しているうちに、考え方のアプローチやカルチャーがとても近しいことが分かりました。
─自社の将来の姿を他社とオープンにディスカッションするというのは、刺激的なプロジェクトですね。
TPR 内田:未来年表の作成を通じて当社の未来像を設定し、そこからバックキャストして現在何をすべきかを考える中で、新事業開発企画室のメンバーそれぞれが新しいビジネスのアイデアを発想するわけですが、既存事業と地続きではない領域の事業を構想するため、勘どころがつかめません。そこで、多様な引き出しを持つ西村さんに壁打ち相手になっていただいたという感じです。
KFL 西村:未来の自社の在り方を見定めて、今やるべきことをバックキャストするという考え方に私自身も共感を覚えて、力になりたいと思いました。
TPR 髙橋:私は、TPRに入社する過程で未来年表からバックキャストして新規事業に挑むアプローチを知ったのですが、ぜひ関わりたいという思いに駆られました。
─未来年表からのバックキャストというアプローチは、大きなビジョンでたくさんの人を巻き込む素晴らしい取り組みといえそうですね。こうした機運の醸成を経て、実際にビジネスに発展したのは、具体的にどんな業務だったのでしょうか。
KFL 西村:相談を受けるうちに、具体的な連携先の紹介や、サンプル作成が必要になった段階だと記憶しています。
TPR 内田:当社からの相談がかなり頻繁になり、調査依頼や当社へのレポート作成などが一定の業務量に達して、具体的なビジネスへと発展していきました。ちょうどそのころ、加藤さんもジョインされ、両社の関わりがいっそう本格化していきました。
KFL 西村:TPRさんの相談に対しては、常に0から1をつくるのが私たちの仕事であると意識して臨んでいました。アイデアを具体化し、実際にプロダクトをつくってPoC(概念実証)に至るまで議論を重ねて方向性を定め、両社で業務を分担して先に進めていく日々が続きました。当社が遂行すべき業務の中には、当社でできることもあればできないこともあり、そんな時は実現できる協力先を探すなど解決策を模索し、少しずつ目に見える成果に近づいていきました。
協業の成果「介護施設向けコミュニケーションサポートロボット」が誕生。互いを尊重しあうことで深まった信頼関係
介護の現場での実証実験を経て、市場投入も近い介護施設向けコミュニケーションサポートロボット「CoRoMoCo」(コロモコ)。ふわふわもこもことした心地よい感触と、おしゃべりや歌による癒し効果が魅力。ただかわいいだけでなく、目にカメラ、口に心拍センサーを装備して高齢者をやさしく見守る機能も備える
TPR 内田:アイデアを形にするために、何度「ちょっといいですか」と西村さんや加藤さんに声をかけたか分かりません(笑)。お力をお借りしている案件はいくつもありますが、公表できる段階に達したものの1つとして、介護施設向けコミュニケーションサポートロボット「CoRoMoCo」(コロモコ)があります(写真は実証実験用の試作品)。
Key Fusion Labさんには、形になるまでのアイデア検証の支援と、キーテクノロジーの1つをご提供いただきました。ただ、CoRoMoCoのさらなるブラッシュアップや、その他の案件にも関与いただいており、Key Fusion Labさんは、今やかけがえのないパートナーです。
KFL 西村:ご提供したキーテクノロジーは、当社が持っていたというより私たちが連携している企業の技術をTPRさんにつなげたものです。ここに至る過程では、報告できる進捗があればこちらからもコンタクトしますし、本当に始終コミュニケーションをとっている感じでした。この密度の濃いやりとりは、同じ WeWork の空間にいなければ実現できなかったと思います。
―介護や高齢者を対象にしたビジネスも、未来年表からの発想でしょうか。
TPR 内田:もちろん未来年表の大きな要素の1つになっています。ただ、ネガティブな課題にとり組むというより、2050年頃の人たちは、どういうものがあったらうれしいのだろうというポジティブな想像力を働かせました。その上でアイデアを具体化し、当社のグループ企業が運営する介護施設で実証実験を行いました。私自身も、研修で現場を体験できたことが、プロダクトの完成度を高める上で、大きなヒントになりました。その中で、実際に利用者さんや介護士の方々に受け入れていただくには、ロボット然としたものではなく「愛着の湧く温かみのある存在がいいのでは」、と考えて現在の形に行きつきました。「2050年は、一人一人に寄り添うAIやロボットが当たり前になっているはず」という仮説からのバックキャストです。
WeWork オーシャンゲートみなとみらい ラウンジスペースにて
―マッチングしても協業にまで至らないケースも多いようですが、今回の成果につながった理由は何でしょうか。
TPR 内田:未来年表を社外の方々と議論してまとめた経験から思うことは、「これからのビジネスは自社に閉じていてはだめだ」ということでした。自社が他社に優っていると感じている技術でも、ある人から見れば全く価値の感じられない技術だったり、時代の変化で陳腐化しているのに気づかなかったりすることも起こり得ます。
それに、自社だけで成し遂げようとすると時間もお金もかかります。であれば、最初からオープンにして他社を巻き込み、最初からそれぞれの得意なものを出し合う方が、スピーディーかつリーズナブルにイノベーションにたどり着けると思います。
─ただ実際には、立場や置かれた環境の異なる企業が手を取り合って事業を進めるために、越えなければならないハードルもあるのではないでしょうか。
TPR 内田:できるだけ広く情報を共有して仲間を集め、力の強いものが利するのではなく、互いがWin-Winになる関係を模索することが、協業においてとても重要だと感じます。
─その場所として WeWork は機能しているといえるのでしょうか。
TPR 内田:情報をオープンにして、共感してくれる仲間を集めるにはとてもいい環境だと思います。そして、実際に具体的なプロジェクトの話をする以前に、日ごろから同じ空間でコミュニケーションを深め、互いの理解が得られていることは重要です。まるで社内の仲間のような感じで社外の方と話し合える文化が、 WeWork にはあります。またこの場所は、もともとオープンマインドな人を引き寄せる力があるのだと思います。
KFL 西村:同感です。その上で、私が WeWork でさまざまな方々と活動をともにする上でポイントだと感じるのは、相手に対する「尊重」です。相手との距離感を詰めていく時や実際に利害関係が生じるビジネスに踏み込む時、すべてにおいて相手を尊重する思いがなければ成り立たないと考えています。今回TPRさんとは、そこがうまくはまったのだと感じています。