事例から読み解く、「働く場」の求心力とは
社員を惹きつける「行きたくなる」オフィスの創り方
新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに、在宅勤務やリモートワークの導入が進んだ日本の働き方。しかし、数年にわたる「コロナ禍」を経験する中で、さまざまな課題も明らかになってきました。
本ウェビナーでは、オフィス回帰の動きが見られるようになってきた今、どのようにしたら「働く場」の求心力を高め、従業員が出社したくなるオフィスを作ることができるのかについて、『月刊総務』代表および戦略総務研究所所長の豊田 健一氏、WeWork Japan 合同会社の城川 理央が解説します。
【目次】
- 事例から読み解く、「働く場」の求心力とは
- 社員を惹きつける「行きたくなる」オフィスの創り方
*本ウェビナーシリーズ第一回(ハイブリッドワークの定着から見るフレキシブルオフィスの有効性)のレポートはこちらから読めます。
事例から読み解く、「働く場」の求心力とは
『月刊総務』代表/戦略総務研究所 所長 豊田 健一氏
株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。『月刊総務』*前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、一般社団法人ワークDX推進機構の理事、ワークフロー総研フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。
*『月刊総務』は1963年に創刊された、総務や人事に特化した日本で唯一の総務専門誌。
今後の働き方、どうしますか?
新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着きつつあるように見える最近、オフィス回帰傾向にある企業が増えています。同時に、総務担当者にとっては「来たくなるオフィスをどう作るか?」が大きな課題となっています。
本ウェビナー開始前に行ったアンケートでは、「今後の働き方について教えてください」という問いに対して、「オフィス勤務を促す」と答えた方が 20%、「現状維持」が60%、「出社せずリモートワークの推進を続ける、またはコワーキングスペースなどを利用してオフィス出社は促さない」との回答が20%という結果となりました。
パンデミックを機に広がったハイブリッドワークですが、「現状維持」と答えた6割の人たちは現在、出社率と在宅勤務率の双方の向上を目指しているのではと感じています。
「リモートワークの推進を続ける」と回答した人には、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行、つまりツインデミックへの懸念があるのでしょう。メディアでも免疫を回避する型が登場したとか新しい流行の波が来ると言われており、今後また強制的に在宅勤務を推進せざるを得なくなる可能性があるということを視野に入れているのでしょう。
「オフィス勤務を促す」と「リモートワークの推進を続ける」が二つとも20%の回答を得ていることから、現在の働き方はある意味、二極化しつつあるのかもしれません。完全なリモートワークか原則出社かの二つに分かれつつある傾向を感じると同時に、「働き方」にはそれまでにその企業が培ってきた社風や企業文化が大きな影響を及ぼしているという気もします。たとえば、みんなで集まってざっくばらんに話し合うことで新しいアイデアや解決策を見つけていく手法を採用してきた自動車メーカーは、「原則出社」に舵を切りました。一方で、リモートワークという働き方の柔軟性を取り入れることで、ビッグ・テックとの採用競争に負けないようにする大手通信系企業なども登場しています。
DXという観点も欠かせません。社内DXを推進したいけれど、大きな組織になるほどセキュリティポリシーとの関係で外部ベンダーが提供するクラウドツールが使えないということもあるでしょう。各社各様の解決法が必要になりますが、このように企業文化や人材確保、DXといった要因で、今後はさらに出社かリモートワークかの二極化が進んでいくのではないかと私は思っています。
働く場の変化は、働き方が変わること
さて、本アンケートにおいて2割の方が「オフィス勤務を促す」と回答されましたが、ここでポイントとなるのは、従業員に強制でなく自律的にかつ自発的に出社してもらうという点です。
働く場の変化とは働く場が変わること、つまり働き方の変化を意味します。コロナ禍以前は強制的に全員がオフィスに集まりました。そのオフィスは自前で、ほとんどの場合、会議室はすべて画一的なデザインに統一されていました。しかし、パンデミック後は、各企業とも多様な働く場を導入しました。在宅勤務、オフィスへの出社、WeWork のようなサードプレイスなど、仕事をする場の選択肢が登場し、多様化したのです。また、オープンイノベーション指向も強くなったため、中には自社ビルの中に会員制のコワーキングスペースを作ることで外との接点を持とうとする企業も登場しています。オフィス内のすべてのスペースのデザインや作りが違うという企業は、従業員がその日その時に働く場所を好きなように選べるようにしています。多様性、自立的、合目的というキーワードが今回のテーマですが、とりわけ、オフィスが合目的かどうか? つまり「従業員が行きたくなる目的に沿ったオフィス作りはどうしたら良いか?」が、今日の本題です。
私たちの働き方は、どう変化してきたのか
働き方は、以下の図の左下の「コロナ前」から右上方向にシフトしています。
これまでは「オフィスで、9時から17時まで」ずっと仕事をしていましたが、コロナ禍に入り「どこでもいつでも」働けるようになりました。2年半というパンデミックの間に、働き方に柔軟性が取り入れられ、ウェルビーイングが重視され、在宅勤務の実施で実際にワークライフバランスが改善し従業員満足度が向上しました。すでにこの流れは定着したと言ってもよく、働く人たちにとっては働く場を選ぶ際に譲れない条件にまでなってきています。
人口減少が懸念されている日本において、優秀な人材を確保するには、もはや働く場のあり方や働き方の多様性が採用活動のツールになってしまった時代です。そのような状況でのアンケートで、2割がオフィスへの回帰を目指しているとのことですが、この背景はいったい何でしょうか。この2年半の間、企業は多様性を確保するために働く場を分散させてきました。しかしその一方で、従業員同士のコミュニケーションが減り、つながり感が低下してしまいました。しかもそれが引き金となって従業員のエンゲージメントと会社へのロイヤルティが低下し、ついには組織力まで低下するという深刻な問題を引き起こしているためだと言えるのではないでしょうか。
私たちは、ともに働く人と共通の目的へ共感することを通じて、つながり感を醸成します。ですから、それぞれが離れたままで働きつづけると「みんなで一緒に頑張ろう」という協働意欲は湧きませんし、コミュニケーションも活性化されません。イノベーションは人が集まってぶつかる場でないと起こらないため、感染状況が比較的落ち着いてきた今は「出社してみんなで集まったほうが新しい気づきがあるから」と在宅勤務の回数を制限する企業も出てきました。
では、働く場の求心力を確保する中で従業員に前向きな気持ちで来てもらう、他の選択肢もある中で選ばれる「働く場」になるためには、何をどう構築したら良いのでしょうか?
「働く場」の求心力を高めるには
「働く場」が多様化した今、サードプレイスやコワーキングプレイスなどリアルで交わる場があれば、イノベーションは担保される部分があるでしょう。選ばれる「働く場」をどう作るかにあたり、三つのキーワードがあります。
第一に、「働く場」が合目的的であることが求められます。つまり、「働く場」に行く意味があるということです。なぜオフィスやサードプレイスに来るのかをきちんと把握し、最適化するのが総務の役目です。
次に、フレキシビリティです。成果が上がる場所を、従業員が自分で選べることが大事です。そして、選んでその場を自らの裁量で工夫できることがポイントです。目的にかなった場を、自分で選んで作り込める状態にすることです。
最後に、シームレスであることです。テクノロジーツールが統一され、在宅でもオフィスでもサードプレイスでも、どこで働いても連続性を保つことが可能で、同一の仕事ができるということです。
1 「交わる」ための空間作りと「協創」
『月刊総務』で取材させていただいた、三井デザインテック株式会社の事例を紹介します。オフィスやホテル、商業施設にとどまらず、住まいや医療施設までのデザインと設計を手がける同社の本社は「CROSSOVER Lab(クロスオーバーラボ)」と名づけられ、ABWを実践しウェルビーイングな空間でイノベーションを誘発するための場とされています。「交わる」というコンセプトのもと、以下の三つがキーワードになってデザインされているそうです。
まず、社内外の組織の壁を超えた「協創」、つまり互いの境を越えて創造性を高めイノベーションを生むための場として。そして働く人の「エンゲージメント」が高まるようさまざまな仕組みを備えた場として。3番目が働く人の「ウェルビーイング」、これは身体的、社会的、精神的に良好な状態を高める場としてです。
出典:『月刊総務』
「協創」や「イノベーション」を考える際に思い出したいのがSECIモデルです。これは、一橋大学の野中郁次郎氏らが提示した広義のナレッジ・マネジメントのコアとなるフレームワークで、暗黙知(個人の知識や経験)を組織全体で共有し、組織の力を高める手法です。そして、今こそこのループが「働く場」に必要なのだと言えるでしょう。
たとえば、ラウンジなどでのちょっとした会話から気づきを得るなどは「共同化」です。得た気づきを、スタンディングテーブルがある場で軽く話してみたり、絵にしてみたりして「表出化」を行います。良いアイデアだと判断したら、今度は真剣にディスカッションする場を設けます。デスクや椅子がある会議室で、「連結化」を行うのです。ここで「形式知」が他の人のそれとつながり、AとBが交わってCになります。次は企画書に落としてみたり、理解を深めたりして「内面化」を図ります。集中ブースや自宅、コワーキングスペースで行う部分となるでしょうか。ここで考えたDを今度はまた他のだれかにぶつけて「共同化」というように、四つのサイクルが巡ることでコミュニケーションが活性化し、組織としての一体感や組織力の向上が期待できます。
在宅勤務が広がる以前は、上記すべての機能がオフィスの中に求められていましたが、今は在宅勤務やサードプレイスの利用などそれぞれの機能を分化しつつこのサークルを回すことが可能になりました。その中で、オフィスをどうとらえるべきでしょうか? オフィスはまさに「共同化」と「表出化」のための場、個人がお互いリアルにぶつかる場となるのです。
そのときの必要性に合った場所をどう作りこめるかが「協創」において成功の鍵となるでしょう。
出典:『月刊総務』
2 エンゲージメントを高める場を作る
従業員のエンゲージメントを高める「働く場」を作るには、何を考えるべきでしょうか?
私は、第一に働く場への誇りと喜び、次に働きやすさや柔軟性、多様な選択肢、そして最後に意味がある仕事があるかどうかだと考えています。格好良いオフィスを用意すればよいというわけでなく、オフィスでしかできないことをきちんと用意するべきです。
「ここで働くことができて嬉しい」という喜びは良い環境を提供する企業への感謝の思いも生みます。「働く場」を選べる柔軟性があることで、「オフィスで仕事をするほうが成果が上がるから、今日は在宅勤務でなく出社しよう」となるでしょう。そして、自分の仕事の意味や、企業の成長に貢献しているかどうかがきちんと感じられれば同僚や上司との良好な人間関係が生まれ、エンゲージメントが高まります。
3 ウェルビーイングを高める場を作る
ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態を意味します。一日という長い時間を費やして仕事をする、それならばオフィスは健康的な場でなければならないという背景から、ウェルビーイングスタンダードやウェルネスなどの概念が生まれました。
身体的な観点から考えると、長時間座りつづけるリスクを避けるために、オフィスを回遊させる仕組みづくりが必要です。2時間ずっと同じ場所にいたら他の場所に動かないといけないというルールを決めている企業もあります。また、バイオフィリアを採用する企業が、最近増えています。観葉植物を多く置いたり、アロマを使ったり、鳥のさえずりを館内で流したりなど、さまざまな取り組み方があります。
精神的および社会的観点を具体的に言うと、人間関係が良好であるということでしょうか。バーンアウトなどを防ぐ意味では、やはりリアルな場に来てみんなとのコミュニケーションを活性化することが効果的です。オンライン上でも良いのですが、ハイブリッドワークが進めば進むほど、長時間滞在してコミュニケーションできる場をどう総務が仕掛けていけるかが大きなポイントです。
これからの「働く場」の仕掛け
私自身は、フリーアドレス制の導入にはまだ課題があると感じています。全員が実行してしまうと、相談ごとが多い部門はまず相談相手を探すことから始めないといけなくなるためです。これでは生産性や効率が落ちてしまいます。
三井デザインテック株式会社では、従業員の座席はコア席を中心に形成されています。つまり、グループアドレス制を採用し、事業部ごとにエリアを決め、そのエリア内で自分の座席を選ぶ仕組みです。コミュニケーションを盛んにしたほうが良い部門はどれか、職種によっては分散して座らせたほうが良いのか、他部門とぶつかる距離が良いのか、ニーズも期待もさまざまある場合が当然なので、今こそフリーアドレス制のあり方を考えるべき時だと思います。職種ごとの生産性とは一体何なのか? 作業効率を高めるべきか? 良いアイデアを出すべきか? など、総務はきちんと鑑みながら配置を考えていくべきでしょう。
三井デザインテック株式会社の代表取締役社長を取材した際に、「快適に働けることで生産性が上がり、売上やエンゲージメント貢献などの相乗効果およびさまざまなシナジーが生まれて、良い循環が始まる」と言われました。出社してもらった結果、コミュニケーション、コラボレーション、コ・クリエイションという循環が始まることを目指しているのです。
オフィスに来て、集団で仕事をしてつながりを得る、コミュニケーションの加速装置としてのオフィスを作ることの大切さです。
行きたくなるオフィスを作るため皆さんに問いたいのは、「どのような目線でオフィスを考えますか?」です。
1 どういう会社でありたいか
2 上記を実現するには、どういう働き方をすれば良いのか
3 その働き方をするにはどのようなワークプレイスが良いのか
ここで気づかされるのは、目にみえるオフィスありきでなく、まずは「どういう会社でありたいか?」という問いから始まることです。
総務ができることは、さまざまな働き方ができる環境を提供し、従業員それぞれが最もフィットする働き方を、自ら見つけていく仕掛け作りです。多様性と言っても、文化、風土、職種などそれぞれにおいて個別に最適化を図ることを忘れてはなりません。自社にとって最も良い場はどのような場なのかを考え抜き、場所として個別最適化を図ることを、数年かけてやっていくのです。
最大多様の最大成果と申しますか、多様の中で最も成果が上がる場をいくつ用意できるかが、これからの総務が目指す場所だと思います。
社員を惹きつける「行きたくなる」オフィスの創り方
WeWork Japan合同会社 Lead, Acquisition Marketing 城川 理央
企業が取り組む働き方の変革
新型コロナウイルスが流行しはじめた2020年の当初から在宅勤務が推奨され、数回の緊急事態宣言を経て、働き方の方針が各社で定まってきたように感じられます。
WeWork Japan 合同会社が行ったテレワーク実施率についての調査では「現在、お勤め先ではオフィスでの勤務とテレワークでの勤務、どちらも認められていますか」という問いに対し、2022年は昨年度より7.6%の上昇が認められました。一年でより多くの企業がハイブリッドワークを導入しただけでなく、全体の50%以上の企業で認められていることから、ハイブリッドワークが現在の主流になっていることがわかります。中でも、従業員数1,000名以上の大企業では66%が認められていると答えています。在宅勤務をはじめとしたリモートワークはもはや人材流出を阻止するために導入されるなど、働き方のスタンダードも変わりつつあります。
企業が成長をするために大事なこととは?
上記の問いに対し、「オフィス環境や働きやすい環境が整備されている」と答えた人が全体の50%以上を占めました。特に、女性の63%が働く環境の重要性を回答していることから、女性登用に取り組む企業には参考になるかもしれません。
「組織風土の改革に取り組んでいる」は2番目に多い回答ですが、最初の問いとリンクしています。たとえば、会社として残業を必要最低限にするよう定めていたとしても、上司が残業していたら部下は帰りにくいなどとよく聞きます。会社の意向と現場の雰囲気にギャップがあるために、組織風土改革が必要となるのかもしれません。
行きたくなるオフィスの要素とは
オフィスは人とつながるため、アイデアを生み出すため、他の人とコラボレーションする場と位置づけ、オープンでソーシャルな場としてデザインされているオフィスを大手IT企業などでは見かけるようになりました。ハイブリッドワークを主流としつつ「オフィスに行きたくなる仕掛け」をしているのです。
オフィスは、「働く場所」から「人とつながる場所」に変わりつつあり、従業員は積極的に魅力的な場所を求めていくようになりました。つながる場所とは、人が集まっている場所です。人がいないと、つながりも生まれませんし、実際に出社したら他にだれもいない、それなら来なくてもいいと思ってしまうようになります。
では、人が集まっている場所にはどのような特徴があるでしょうか。私自身は、渋谷を思いつきます。若者たちが写真を撮ってSNSにアップするなど、人は「渋谷」という場所にわざわざ行くという選択をしています。これは、オフィスに行くと言うときにも同じことではないでしょうか? 私たちが考える「行きたくなるオフィス」の要素のひとつは業務に集中できる環境が用途に応じて使い分けられること、次にワクワクできる場所であることです。
行きたくなるオフィスを実現するには
しかし、行きたくなるオフィスを作るために今の環境を刷新しようと考えても、実現にはさまざまな壁が立ちはだかります。内装工事や移転には、コストも時間もかかります。また、新型コロナウイルス感染症の広がりで私たちのだれもが経験した、将来への不確実性。これから5年間の賃貸借契約を結びますか? 今できる範囲でワクワク感を得るために社内イベントを開催するというのも、忙しい総務や人事の担当者が企画するのは現実的でないかもしれません。
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